地方に本社を置く企業も名を連ねている。佐賀市が本社の戸上電機製作所だ。制御機器や配電盤などを製造するシステム機器メーカーで、『CSR企業総覧2018年版(雇用・人材活用編)』に掲載の2016年度末の従業員数は380人だ。
同社のホームページには、新入社員研修の内容と流れが公表されている。それをみると、まず入社前研修として社会人の基本に関しての通信教育を行い、入社直後の宿泊研修ではマナーや社内規定などの研修を行うとある。その後部門別に分かれ、部門ごとの役割や知識を理解するための研修を行っている。
ここまではおそらくどこの企業でも似たようなことは行っているはずだ。5月以降、組立、機械加工研修として、社内マイスターによる機械の使用方法や部品加工の研修が約4カ月にわたり実施されている。ここで技術の習得だけでなく、先輩などとの人間関係も培われていくのであろう。
弊社刊『都市データパック2017』によると、佐賀市に本社を置く上場企業は3社、そのひとつが同社である。新入社員が地元出身の学生かどうかはわれわれの調査ではわからないが、もし地元で就職をと考えていた学生にとって、日本全国に拠点を持つ有力地元企業は願ってもない就職先だろう。新入社員が辞めないのには、そういう側面もあるかもしれない。
やはり低い非製造業の定着率
新入社員の3年後定着率を業種別でみると、最も低いのが小売業の66%、次いで証券・商品先物の71.5%、サービス業の74.1%となっている。製造業ではほとんどが80%超、運輸関連や銀行、保険などの金融、情報・通信業も80%を超えている。ただ、本調査は任意回答であり、低い企業では回答しないケースもあるため、全体に高めの数値となることは否めない。
併せて、3年後定着率が100%の108社を業種別にみても、機械と電気機器がともに15社で最も多く、化学13社、卸売業9社と続く。一方、小売業は1社しかなく、証券・商品先物はゼロだ。
ちなみに、本ランキングの対象企業で、新入社員の3年後定着率が50%以下の企業が28社ある。このうち小売業(外食産業を含む)が12社と最も多く、サービス業が5社、情報・通信業が3社などだ。
本稿冒頭で紹介した厚生労働省の調査では、3年以内の離職率(大卒者)は「宿泊業、飲食サービス業」で50.2%(=定着率48.8%)、「生活関連サービス業、娯楽業」で46.3%(同53.7%)、「教育、学習支援業」が45.4%(同54.6%)など、対個人サービス産業で高くなっている。小売業も離職率38.6%(同61.4%)と高い。
こうした小売業などの非製造企業であっても、本稿で紹介している上位300位のランキングに顔を出している企業は、数は少ないものの存在している。たとえば255位のセリアは最近急速に店舗を増やしている100円ショップだ。同社の定着率は94.4%で、前述の業種平均を28ポイントあまり上回っている。
同社の新入社員研修は、1カ月ごとに店舗オペレーション、接客、商品企画などをテーマとする「本社研修」と、それらを実際に店舗で実践する「店舗研修」を繰り返し、オペレーション能力を向上させる仕組みになっている(同社HPより)。またリアルタイムPOSなどのシステムを導入し、店舗運営をできるだけ効率化・簡素化することで、接客に注力できる仕組みづくりを進めている。
「辞めないこと」がよしとされる時代ではないが、不本意な形で新入社員が辞めていくのは、コストをかけて採用した企業にとっても不幸なことだろう。
まして短期間で新入社員の半分も辞めてしまう会社は、人材に対する考え方を省みる必要があるのではないか。労働人口の減少が進む中で、優秀な人材をいかに自社に引き留めるかという問題は、今後より多くの企業を悩ますことになるだろう。
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