とはいえ、売上高課税は、質の悪い税である。売上高税は、いくら仕入れたかにかかわらず、売上高に比例して課税される。支払う税額を計算する際、仕入時に支払った税金は控除されない。そのため企業は、最終消費者にだけ販売するわけではないから、売上高税では課税の累積を排除できない。
これに対して、付加価値税(日本では消費税)は、売り上げ時に税を課すが、仕入れ時に支払った税を差し引いて、納税すれば済む。仕入れ時に支払った税を差し引く仕組みを、仕入税額控除といい、日本でも導入されている。
なぜ売上高税は問題なのか
売上高税はなぜ問題なのか。たとえば、文房具店で文具を買うのは、最終消費者だけでなく、洋服を売るアパレルショップが業務上の必要から買うこともある。すると、アパレルが文具購入時に支払った税は、付加価値税ならば仕入税額控除ができるが、売上高税では控除できない。それをアパレルが最終消費者に転嫁すれば、小売り段階の洋服にも売上高税がかかるので、課税の累積が起こってしまう。課税の累積が起こるため、流通経路次第で販売価格に税が上乗せされていく、という支障が出る。
もし、巨大ネット企業に売上高税が課されれば、課税の累積が目に見えない形で起きかねない。特に独占力のある巨大ネット企業は、自らの税引後利益を減らさないように取引企業や消費者に税負担を転嫁することは、十分にあり得る。たとえば、アマゾンから業務に必要な書籍を購入し、グーグルの事業で顧客にサービスを提供し売り上げを得る場合である。アマゾンは、書籍の売り上げに売上高税が課されるから、その分を(見えない形で)グーグルに転嫁するだろう。
グーグルは、アマゾンの転嫁分も込みで仕入れ時のコストと認識し、マージンを上乗せして顧客に販売する。その販売時に、グーグルが得た売り上げに課される売上高税の負担を、顧客に転嫁するだろう。顧客はグーグルからしかそのサービスが受けられないなら、その転嫁を甘受するしかない。
アマゾンに課された売上高税は、グーグルへの販売価格に上乗せされたうえ、グーグルに課された税負担は顧客に転嫁することになる。付加価値税ならこんなことは起こらない。
課税の累積を排除する仕組みである仕入税額控除は、フランスで発明されており、売上高税の欠点はEUもわかっている。だから、巨大ネット企業に売上高税を課すのは、中長期的な法人課税ルール改革が実現するまでの暫定措置として提案している。
デジタル課税は、EUのすべての加盟国が賛成しないと、実施されない。加盟国の中ではアイルランドやルクセンブルクが消極的とみられる。
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