格差時代の統計では「中央値」の公表が必要だ

「平均値」は「普通」を意味するわけではない

一方、どのような世帯や個人を念頭に置いて制度を設計すべきかといった問題に利用する場合、平均値を使うことには問題が多い。手元にある統計の入門書には、以下のような例え話が書いてある。

「レストランで9人の客が食事をしていると、たまたま、世界一のお金持ちが友人と2人で入ってきた。レストランの客の平均資産額は『平均的な』お客の資産額といえるだろうか?」

フォーブスが発表した2018年版の世界長者番付によると、今年はアマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)がマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏を抜いて初めて世界一となったということだ。ベゾス氏の資産額は1120億ドル(約12兆円)で、1年間で392億ドル(約4兆円)増加したという。

もしも、ベゾス氏がレストランに入ってくると、客の平均資産額は1兆円を超えてしまうが、教科書には、こうしたときには平均値ではなく中央値(金額の多いほうから並べてちょうど真ん中の人の保有額)を使うべきだと書いてある。資産額の順位がちょうど真ん中になる人の資産額(中央値)を使えば、ベゾス氏が友人とレストランに入ってきても、事情が急にそれほど大きく変わることはないはずである。

貯蓄額の中央値はあまり増えていない

日本で、毎年家計の貯蓄や負債を調べた家計調査が発表される際に、新聞の見出しやニュース番組に出てくるのは、平均貯蓄額がいくらになったかということで、中央値に言及されるのを筆者は見たことがない。統計を使う側だけでなく、作る側も中央値を求めることにあまり熱心ではなかったようだ。

2015年までは、保有している貯蓄がゼロの世帯は中央値を求めるときに除外されており、貯蓄ゼロの世帯を除く中央値しか発表されていない。これを代用すると、2002年から2016年までの間に、貯蓄額の平均は1688万円から1822万円へと134万円増加したが、中央値のほうは1022万円から1064万円へと増えただけで、増加額は42万円にすぎない。保有している貯蓄の多い世帯がさらに大きく貯蓄額を増やした一方で、保有している貯蓄が少ない世帯では貯蓄額があまり増えなかったことを意味している。

平均値の悪口ばかり書いたので、少しはその歴史的な意義も述べておくべきだろう。平均値ばかりが注目されるという批判をするようになった現在では想像することも難しいが、平均値という考え方が社会的に認知されるようになったのはそれほど古いことではないようだ。

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