2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることが決定した。招致委員会が発表している経済効果は約3兆円(図1)。
以前、このコラムでも取り上げたことがある、内閣府発表のTPP(環太平洋経済連携協定)の経済効果も約3兆円だ。
そうすると、TPPとオリンピックでは同じくらいの経済効果があると予想されているようにみえるが、実はこの2つの「経済効果」は違うものを指している。
「GDPの増加」と「生産誘発額」の違い
発表文をよく見るとオリンピックの経済効果のほうは、「経済波及効果(生産誘発額)」であるのに対して、TPPの経済効果のほうは「実質GDP(国内総生産)の増加額」だ。よく似た、生産の増加を試算しているのだが、違うものを比較していることになる。些末なことにこだわっているようにみえるかもしれないが、たとえば、2人の学生の国語と英語のテストの成績を比べているようなものなのだ。どちらも広い意味では学生の言語能力を示すものには違いないが、この2人の点数を比較することはできない。
内閣府が発表したTPPの経済効果の試算そのものは、複数の要素が関係していてややこしいので、教科書によく出てくる景気対策で公共事業を増やす例で、何を計算しているのかを説明しよう。
たとえば1億円の公共投資を行うと、事業を行った企業は労働者を雇って賃金を支払い、得られた利益を配当するので、家計所得が増える。所得が増加した家計は消費支出を増やすので、別の企業の売り上げが増加する。売り上げが増えた企業は生産が増え、労働者を雇って賃金を支払い、利益を配当するので、家計の所得が増えて、さらなる消費の増加を生む――という連鎖が起こる。
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