米銃規制、「賛成」と「反対」がせめぎ合う現場 デモに参加した人たちの生の声とは?

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その横には、参加者よりも数多くの警官が待機し、やや緊迫した雰囲気だ。

「銃を持つ市民の権利を守れ」と声を上げる中高年の参加者の中に、高校2年生のブリットニー・ブランチ(16)がいた。

彼女が銃を持つ権利をあえて人前で主張する理由 

多くの高校生たちが銃規制を強く望む今、銃を持つ権利をあえて人前で主張する理由を彼女に聞いてみた。

高校2年生のブリットニー・ブランチさん。銃を持つ権利を擁護。彼女の父は知事選に立候補している(筆者撮影)

「銃が人を殺すのではなく、引き金を引くのはあくまで人間。誤解しないでほしいけど、撃たれて犠牲になった高校生たちのことは本当にかわいそうだと思う。でも、メンタルヘルスの問題がある人に手厚いケアをしない社会が問題なのであり、銃が悪なのではない」とブランチは言う。

ちなみに、彼女が通っていた中学校では、ある男子学生が銃を教室に持ち込み、大騒ぎになったことがあったという。

「女の子に振られて、頭に来て銃で殺そうと思ったらしい。そんな事件があった後も、彼のメンタル面のケアを学校側は一切せず、彼を放置したままだった」と彼女は言う。

未成年が銃を簡単に買えないように法規制すれば、学校生活は今より安全になるのでは、と聞くと「そういう考えは尊重するけど、私はそうは思わない」と語る。

ブランチの父は海軍経験があり、家にはつねにピストルが保管されているのだそうだ。彼女が幼い頃、一家が治安の悪い地域に住んでいた時は、銃と父の存在が「もし誰かが侵入してきても大丈夫だ」という安心感を彼女に与えていたという。

「銃の使い方、保管の仕方をきちんと学んで、自分の身を守ることは大事だと思う。私が将来、老人になった時も、銃があれば自分の身は自分できちんと守れるし」

銃規制を求める市民たちが、全米ライフル協会を敵対視する点をどう思うか聞くと、こう答えた。

「NRAのメンバーが学校を襲撃して子どもを殺すわけではないし、むしろ彼らは子どもを守る側なのでは」

彼女が立っているすぐ横にウィルショア大通りがあり、ひっきりなしに車が行き交う中、10台に1台ぐらいの割合でクラクションが鳴る。

音を鳴らすのは彼らの主張に共感しているというジェスチャーだ。

NRAのキャップを被り「銃を持つ権利を守れ」と手製のポスターで呼びかける男性(筆者撮影)

やがて、NRAのロゴの入ったキャプをかぶった男性が彼女の横に加わり「その権利を守れ」という文字と、ピストルの絵が描かれたポスターを掲げた。

さらに、その横に、若いヒスパニック系の男女3人組が巨大な星条旗を持って参列した。

「プロテストしているの?」と通行人が彼らに聞くと「プロテストなんてしてない。アメリカ市民であることを表明しているだけ」と旗を持つ20代の女性が笑顔で答えた。

数万人の規模にはとても及ばないごく小さなデモだったが、大通りを走る車の列からは、彼らを支援するクラクションの音が鳴り、その音が途絶えることはなかった。

長野 美穂 ジャーナリスト

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ながの みほ / Miho Nagano

米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙記者として5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社に勤務した経験もある。

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