こうしたイスラム原理主義の高まりは、国際的な潮流であると同時に国内情勢の反映でもある。多民族国家マレーシアの多数派はマレー系で、定義上はイスラム教徒だ。
マレー系は英国植民地時代には傍流に置かれたが、今では経済・教育面で特権待遇を手にする立場にある。このようなマレー系優位の状況はUMNOが圧倒的な政治力を維持できるかどうかに懸かっているし、UMNOもそのように主張している。
石打やむち打ちの酷刑の導入に協力
完全なるイスラム国家樹立のために闘ってきたPASは目下、シャリーア(イスラム法)の適用拡大に加え、イスラム教徒の私的・家庭問題に権限が限定されているシャリーア法廷の地位を、通常の民事法廷と同レベルに引き上げるよう求めている。PASが看板に掲げるイスラム原理主義がUMNOのマレー民族主義にぐいぐいと食い込む中、こうした政治目標を支持するイスラム教徒が増えている。
2013年の総選挙でナジブ氏のUMNOは得票総数で野党に負けた。議席数では過半数を維持し、権力の座にしがみつくことができてはいるが、この件があって以降、ナジブ氏はPAS総裁のハディ氏を抱き込むべく動いてきた。
たとえば、姦通、飲酒、背信などの罪に対して石打ちやむち打ちの酷刑を科す「ハドゥード法」の導入が可能となるよう裏で協力するといった具合に。これによって、PASの野党連合合流が阻止されただけでなく、ハディ氏は汚職スキャンダルにまみれたナジブ氏の援護役に回ることになった。まさにマキャベリ流の権謀術数である。
PASが今のような交渉力を維持できるかどうかは、マハティール氏の野党連合がどこまで存在感を発揮できるかで決まる。マハティール陣営の議席数が3分の1に満たなければ、PASが政局を左右する状況は続く。
与党UMNOは選挙に勝ったとしても、PASのイスラム原理主義政策に対して、これまで以上に抵抗できなくなるだろう。だが、マハティール陣営が3分の1を獲得すれば、UMNOはたとえ政権与党の座を守ったとしても独占力を失い、イスラム原理主義化の流れは覆される可能性がある。
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