年金を75歳までもらえなくなるって本当? 日本は受給開始年齢を自由に選択できる制度

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年金改革論を大きく前進させたのは、前回の「大綱」が閣議決定された直後、3党合意の下に開かれた社会保障制度改革国民会議であった。2013年8月に出された国民会議報告書には、今後の年金改革の課題――それは将来の給付水準を上げる方策――として、次の3つが示されていた。

 Ⅰ マクロ経済スライドの見直し
 Ⅱ 短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大
 Ⅲ 高齢期の就労と年金受給のあり方

Ⅲに関する文章の中で、「2004(平成16)年の制度改革によって、将来の保険料率を固定し、固定された保険料率による資金投入額に年金の給付総額が規定される財政方式に変わったため、支給開始年齢を変えても、長期的な年金給付総額は変わらない」との現行制度に対する正確な認識が示され、「高齢者の就業機会の幅を広げることに取り組むとともに多様な就業と引退への移行に対応できる」ように、年金の受給開始の選択年齢を議論すべきことが述べられていた。

こうした背景があって、2014年5月、当時の田村憲久厚労相はNHKの朝の討論番組で、年金の受給は「今も70歳までは選択できるが、これをたとえば75歳まで選択制で広げる提案が与党から出されていて、一つの提案だと認識している」と、今回の「大綱」と同じことを発言した。だがその直後から、「逃げ水年金」といった形で、SNSやメディアからの誤解によるバッシングの嵐が吹き荒れ、当時の政府はこの方向への年金改革を断念した。しかしその後、冒頭の例のように、メディアの間での理解は徐々に進んでいった。

今度はうまくいきそう?

昨2017年に入ると、捲土重来を期したいくつかの動きが始まった。小泉進次郎氏ら若手議員も「人生100年型年金」の議論に入り、公的年金を受け取り始めることのできる年齢を75歳まで引き上げる方針を示していった。そして高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会(2017年6~10月)での専門家による議論を経て、このたび、「大綱」の中に、「70歳以降の受給開始を選択可能とする」という文言が盛り込まれたのである。

この点に関して、「受給開始年齢の上限の撤廃」を主張してきた私は、どうして上限が75歳どまりなのか、日本と同様に「保険料の固定や自動的な給付抑制策を採る」スウェーデンでは61歳以降の上限の年齢はない自由選択なのに、とも言いたくはなる。しかし昨年、日本老年学会・日本老年医学会が高齢者75歳提言をしてもいたので、75歳、それもよしなのだろうと思っていたりもする。

権丈 善一 慶應義塾大学商学部教授

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けんじょう よしかず / Yoshikazu Kenjoh

1962年生まれ。2002年から現職。社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。著書に『再分配政策の政治経済学』シリーズ(1~7)、『ちょっと気になる社会保障 増補版』、『ちょっと気になる医療と介護 増補版』など。

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