年金を75歳までもらえなくなるって本当? 日本は受給開始年齢を自由に選択できる制度

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次の文章は、2012~2013年の社会保障制度改革国民会議の委員であり、今も、財政制度等審議会の委員である宮武剛氏の文章である(『健康保険』2015年5月号)。宮武氏も支給開始年齢の引き上げは、「世代間の公平性をゆがめる」からやるべきではないと考えている。そしていまだに支給開始年齢引き上げを行うべきと言う人たちを取り上げて、次のようにも論じる。

先進国の年金制度は軒並み67~68歳へ移行予定なのに、わが最長寿国が65歳でよいのか、という主張だ。しかし、保険料の固定や自動的な給付抑制策を採るのは日本やスウェーデン等だけで、この違いを軽視・無視していないか。

年金資金の逆流が起こってしまう

ここで、「自動的な給付抑制策」というのが、先に説明したマクロ経済スライドのことである。では、次の文章はどうだろうか。

将来世代の給付カットによって、実は、既裁定年金者たちの給付水準が上がることにもなる。つまり将来世代から既裁定年金者たちに年金資金の逆流が起こる。だから、年金受給世代が、支給開始年齢の引き上げを行うべしというのは、若い人たちにとって実に無礼な話でして、彼ら若い人たちの年金カットで、自分たちに使わせろという意味にもつながるわけです。しかも、保険料水準固定方式の下では、長期的には財政改善効果はない。(中略)そうした理由から、「支給開始年齢の引き上げ」という呼び名の、将来世代の給付水準のカット、切り下げは、とうの昔に捨てられているわけです。
 (中略)
何でわかってくれないの?というようなことになるのですが、われわれはこうした人たちを、平成16年以前の人たちという意味で、old fashionとかアンシャン・レジームと呼んでおります。

これは、2016年10月の日本年金学会での私の講演の一部である。日本の公的年金はマクロ経済スライドという、現在の年金受給者から将来の受給者に仕送りをする仕組みを持っている。そうであるのに、年齢・給付水準線を右にシフトするA→C型の、いわゆる「支給開始年齢の引き上げ」は、将来の年金受給者から現在の受給者に年金資金の逆流を起こし、世代間の格差を拡大する愚策であるため、私たちは、政策の選択肢からとうの昔に外している。そして、厚生労働省年金局もようやく重い腰を上げて次のような資料を作った。

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