ひとつは新事業創出や起業により、新たな需要と雇用の創出が日本経済の活性化に重要と考えるからです。副業・兼業の促進が潜在的創業者の増大につながることや、技術革新スピードが加速する中で、自社独自のリソースだけではイノベーティブな製品やサービスを創出することが難しくなってきており、社員が社外で働くことで、オープンイノベーションの加速化が期待されています。また、副業・兼業者は中高年の割合が高いことからミドル世代の社員が自身の人材価値を高めることで、第二の人生の準備につながるという見方もあります。
こうした政策的な期待とあわせて、副業・兼業は労使双方にとってメリットがあると言われています。労働者側にとっては、収入が増えるだけではなく、スキルや経験を得ることで主体的にキャリア形成をすることに役立ったり、自己実現を追求できたり、またリスクを最小限にして起業・転職に向けた準備・試行ができたりする利点が挙げられます。
企業にとっては、副業・兼業実践者がもたらす社内にはない知識・スキルや人脈を得ることで、事業機会の拡大やイノベーションにつながったり、労働者の自律性や自主性を高められたりすることが利点です。さらに、副業・兼業を認めること自体が、柔軟な働き方について前向きである証左となり、優秀な人材の獲得やリテンションにつながることが期待されています。
就業規則はこう変わった
これまでの就業規則では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」が遵守事項として定められ、これに違反した場合に懲戒処分の対象となることが明記されている企業が多いと考えられます。もともと厚生労働省が公表している「モデル就業規則」において、そのような規定があったためです。それが2018年1月に改定され、副業・兼業は原則禁止から容認の方向へ大きく舵が切られたのです。
改定後のモデル規則では、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とされ、この場合は事前に会社に所定の届出を行うこととされています。ただし、労務提供上の支障がある場合や企業秘密が漏洩する場合、会社の名誉や信頼を損なう行為等がある場合などについては、副業・兼業を禁止又は制限ができるような文言も記載されています。
裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であることが示されており、すべての副業に関して会社が全面的にNOとは言えない状況となっています。
準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、会社側が後2回については不許可の理由はなく、不法行為に基づく損害賠償請求が一部容認(慰謝料のみ)とされた事案もあります(マンナ運輸事件 京都地裁 平24.7.13)。また、教授が無許可で語学学校講師などの業務に従事し、講義を休講したことを理由とした懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした事案もあります(東京都私立大学教授事件 東京地裁 平20.12.5)。
他方、就業時間後に会社に無断で深夜までキャバレー勤務をして本業での居眠りが多かったなど労務提供に支障を来していた事案(小川建設事件 東京地裁 昭57.11.19)では解雇が有効とされています。
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