地方経済疲弊にリーマン破綻が追い討ち、続々と赤字に転落する地銀
金融筋によると、従来、地銀にとっての最大の貸出先は「消費者金融をはじめとしたノンバンク」だった。しかし06年12月、上限金利の引き下げや総量規制を盛り込んだ改正貸金業法が公布されると、状況は一変。利ザヤ縮小などで財務内容が劣化しかねないと見た地銀側が消費者金融向けの与信を徐々に絞り始める。それが端的な形で表れたのが、07年9月のクレディア(当時、東証1部上場)の破綻。負債総額は757億円に上ったが、その借入先には静岡銀行を筆頭に岐阜、清水、東和、静岡中央、西京など数多くの地銀が名を連ねていた。
だが、消費者金融向けの融資を引き揚げるにしても、ただ単にそれを寝かせているだけでは収益を生むはずもない。引き揚げた資金の受け皿となる新たな貸出先を見つける必要があったのだ。こうして一斉に資金が向かっていったのが当時、「再生事業」「証券化」といった、一見、スマートなセールストークで不動産を買いあさり、急速に資金需要を膨らませていた新興デベロッパーをはじめとする不動産業界だった。
金融庁筋によると、都内に本店を置くある地銀では、総貸出残高に占める不動産向け融資の比率が「一時、6割近くにも達していたところがあった」という。そこにサブプライムショックとそれに誘発された市場の混乱、さらには地価下落や信用収縮の嵐が襲いかかったのだ。
実は金融当局は、サブプライム問題が火を噴く以前の昨年春ごろから、地銀界の不動産向け融資への傾斜ぶりにしきりと警鐘を鳴らしていた経緯がある。地銀各行の頭取クラスが出席して全国地方銀行協会で毎月開かれる例会。これに金融庁幹部が出席して「(不動産向け融資比率の上昇が)いささか憂慮すべき状況にある」と指摘、暗に貸し出しを自制するよう求めたのだ。
しかし、地銀各行の反応は鈍かった。むしろ動いたのは金融庁サイドの意向を伝え聞いた大手行だった。りそな銀行幹部によると「真っ先に不動産向け融資の圧縮に走ったのが、中央三井信託銀行。それにみずほ銀行や三菱東京UFJ銀行などのメガバンクが一斉に追随していった」らしい。中には、自らが主幹事(アレンジャー)を務めてまとめた協調融資さえ引き揚げようとしたところもあったとされる。
実際、8月13日に破綻したアーバンの借入実績(単体ベース)の推移を見ると、こうした大手行の“逃避行”ぶりは如実だ(下表参照)。06年3月期までは短期借り入れ、長期借り入れのいずれでもみずほ、三菱東京UFJなどが調達先上位を占めていたのが、07年3月期になると大手行はリスクの高い長期融資からまず引き揚げて大きく後退。代わって、広島銀行や関西アーバン、東京スターなどが上位陣に顔を出すようになる。そして今年3月末の残高実績では、1年以内に返済期限の来る長期借り入れでわずかに中央三井信託が5位に名を連ねているだけ。あとの大手行はすべて上位からその姿を消した。
「気がついたらメインにされていた」。破綻時で計128億9900万円のアーバン向け与信を抱え、うち未保全の44億円が焦げ付くことになった広島銀関係者はこう悔やむと同時に、みずほなど大手行の“引き際”の鮮やかさに舌を巻く。