引きこもりを克服、結婚した41歳男性の軌跡 20代後半からの過食、退職、婚約破棄を経て…

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進一さんは行動力がある。実家から通える範囲の10カ所ぐらいに登録し、100人以上とお見合いをした。しかし、大半の女性とは1度しか会えなかった。再就職して1年未満であることが不安材料だとはっきり指摘されたことも少なくない。

進一さんはお見合い相手の範囲を「バツイチOK」に広げた。そこで出会えたのが看護師の彩子さん(仮名、35歳)だ。

「離婚歴はありますが子どもはいません。落ち着いて控えめな雰囲気がいいな、と思いました」

幸いなことに彩子さんも積極的な進一さんを気に入ってくれた。交際を始めた後、過食症を患っていた過去についても話した。彩子さんは「今が健康なら問題ない」との返事。看護師として、数多くの病人の回復を見てきた経験が生かされた発言なのかもしれない。1年半の交際を経て、昨年の春に2人は結婚した。

彩子さんは頑健なほうではなく、仕事で疲れて果てて家では料理をするのがやっとだ。食器の片づけ、掃除、洗濯はキレイ好きの進一さんが主に行っている。今年の春には彩子さんは休職をして、不妊治療に専念する予定だ。

不妊治療を受けて子どもをつくることは彩子さんの意向だが、進一さんも先を急いでいる。仕事の傍らに社会人大学院に通い、キャリアアップの転職も模索しているのだ。

「家を建てることも考えています。同級生の友達は、すでに子どもが2人いて、一戸建ての家があり、車が2台あったりするからです。私には5年の遅れがあります。ちょっとでも追いつきたい。そのためにつねに何かしていたいと思っています」

暗がりから抜け出した体験はかけがえがない

同じく愛知県民の晩婚さん仲間でもある筆者として、聞いていてちょっと心配になった。進一さんほどではないが、筆者も30代前半に暗闇のように不毛な数年間を過ごした。後悔もたくさんある。再婚してそれなりに健康に働けている現在でも、焦りや不安が消えることはない。だから、「同級生に追いつきたい。つねに何かをしていたい」という進一さんの気持ちはわかる。

でも、物事には優先順位がある。まずは自分の心身を健康に保つことが何より大事だ。健康だからこそ家族に優しくできるし仕事に精を出せる。理想を追って大幅に生活を変えることは心身の負担になってくるだろう。

次に重視すべきは家庭生活だ。進一さんにとっての家庭とは彩子さんに尽きる。マイホームでもマイカーでもない。夫婦関係がうまくいかないと生活が不安定になり、仕事にも勉強にも集中できなくなる。結婚したばかりで不妊治療も予定するなど家庭内に変化が多い今は、同時にキャリアアップの勉強や転職などに注力する段階ではない気がする。

不遇な時期やコンプレックスは人生の味わいだと思うことができれば、その人は薄暗がりにある黄金のように静かな輝きを放てるはずだ。5年間にわたる過食症と引きこもり生活という暗がりから抜け出した体験はかけがえがない。抜け出せたのは両親の愛情と進一さんのまじめさの賜物だろう。順風満帆な人生を歩んでいては絶対に得られない闇と輝き。否定するのではなく、むしろ誇りに思ったらいいと思う。

進一さん。2人の幸せは、いますでにここにあるのではないだろうか。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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