進一さんの症状は悪化し、退職せざるをえなくなる。大病、婚約破棄、失業。トリプルパンチである。唯一の救いは、守ってくれる実家があったことだ。
「両親は黙って私を応援し続けてくれています。でも、実家に引きこもっていた頃は、毎日のように『あのときにああすればよかったのかな』と後悔ばかりで苦しかったです。当時は体重が130キロもありました。太りすぎて歩けないので家で寝てばかり。するとまた太る。悪循環でした。30代前半といえば、仕事で力を発揮し始める時期ですよね。結婚をする人も多い。それなのに自分はどん底です。同級生から送られてくる幸せそうな年賀状を見るのがつらくて、返信しなくなってしまいました」
そんな状態が5年近くも続いた。進一さんもつらかったと思うが、とっくに成人した息子を丸ごと引き受ける両親の心労も尋常ではない。それでも進一さんを信じて守ってくれたのだ。
同世代からの遅れを取り戻したい
ようやく体調が回復してきたと感じられるようになったのは34歳のときだった。まずは体重を落とさなければならない。進一さんは近所のスポーツジムに通い始めた。
「どこかに通うようになると社会とつながるものですね。ジムには生き生きとしたお年寄りがたくさんいて羨ましくなりました。自分はこんな状態ではいけない、結婚しなくちゃダメだと思ったんです」
いきなり結婚とは唐突な気がする。しかし、愛知県三河地方で生まれ育った進一さんの体には「普通に就職して普通に結婚する」ことが価値観として染みついているようだ。筆者も同じく三河地方に住んでいるので進一さんの気持ちはわかる気がする。仕事がたくさんあって気候も良くてとても暮らしやすいけれど、多様性は少ない土地柄なのだ。製造業が盛んだからなのか、「夫は外で稼いで妻は家を守る」という風潮も根強い。
体調が回復して気持ちが前向きになるにつれて、「同世代からの遅れを取り戻したい」という意識が強くなった進一さん。心配をかけた両親を早く安心させたい、という側面もあったのだろう。
とにかく再就職先を探さねばならない。進一さんはハローワークおよびネットの転職エージェントに登録。5年間のブランクが災いして、書類審査で落とされてしまうことが多かったが、50社ほどは面接を受けられた。まじめな進一さんは面接トレーニングのセミナーにも通って必死で準備。1年間の就職活動の末、県内の中小企業への再就職を果たした。37歳になっていた。
「今のところは休まずに働けています。年下の先輩社員に仕事を教えてもらいながら、ですけどね。かつて大企業で働いていたというプライドはもうありません。同僚はみんな優秀ですから私も頑張っています」
再就職が決まると同時に、婚活も始めた。ただし、5年間も実家で引きこもっていた身の上で高額の結婚相談所に入ることはできない。進一さんはネット婚活に加えて、県内の各自治体にある結婚相談所に着目した。
「地元の婦人部などが運営していて、市役所内に窓口があったりします。入会金は2000円ぐらいで、1回お見合いするごとに1000円を支払うところが多かったです」
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