また、所得格差を固定化させないために最も重要なのは次世代の教育である。ところがこれも難しくなっている。
米国では、幼児教育の段階から、私立のほうが公立よりも質が高いとされる。しかし都市部では、私立であれば、保育園ですら月々の支払い額が10万円をゆうに超えるとされる。中学・高校は公立なら無償だが、私立の授業料は日本に比べて高額で、年間300万円という高校もある 。金利の上昇はこれらの高度な教育を受けるために借金を負うことを一層困難にする。
さらに、よく知られているように、米国の大学の学費は世界でも突出して高い。中には学費が年600万円を超えるような私大もある。学生ローンを借りるという選択肢はあるが、今後、新規の借入金利は、長期金利の上昇とともに引き上げられる見込みだ。月々の支払いを軽くするなどの制度変更案も議論されているが、授業料が大幅に引き下げられるか、政府が財政悪化覚悟で無償奨学金を大幅に拡充しない限り、学生たちの負担感は重いままだ。
こうした背景から、米国では、社会人になっても家族と同居して生活費を節約するという若者が戦後最高の比率になっている。しかし、低所得者世帯ではこうした両親への依存もままならない。
政府も中銀も格差拡大は看過できない
今回のような、財政が大幅に悪化する中での政策金利の引き上げは、近年では例のない試みである。米国がリーマン前の2004~2006年に段階的な利上げをした時には、政府の総債務は8.9兆ドルと今の20兆ドルの半分以下だったし、基礎的財政収支もほぼ均衡していた。
格差問題はすぐに深刻化するわけではない。しかし、じわじわと、世代をまたいで、米国を揺るがす火種になる。格差は殺人などの凶悪犯罪と高い相関があるとされる。先日のフロリダ州での銃乱射事件にもみられるように、米国は銃犯罪の多さで先進国中突出している。これ以上の犯罪防止のためにも格差の拡大は何としても食い止めたいところだろう。
こうした社会的な問題を考慮すると、拡張的な財政と政策金利の引き上げをセットで行うのは大きなリスクと考えられる。市場には4回の利上げを予想する声もあるが、ここからの金利上昇は、大きな副作用をもたらす可能性がある。パウエル新FRB議長には、きわめて多面的な考察が求められそうだ。
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