社長の僕が40歳を過ぎて大学院に通ったワケ ストライプ石川康晴社長が語る「学び直し」

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――アパレル業界はどこも不況で苦戦しています。これまでの経営手法は通じなくなってきているのでしょうか。

アパレルの経営者は足りないところだらけです。経営戦略や事業戦略、ファイナンス、もっと言うとマーケティングのベースすら「全然分かっていない人」が多い。今までのアパレル経営者は好きなこと、やりたいことをやって、100億円や200億円のブランドを作れました。だけど、これからは少子高齢化でデフレが続きながらeコマースまで出てきて完全に向かい風。戦略性を持たなければ生き残れません。

例えば、僕たちは同じブランドでも立地と価格を戦略的に変えていくことを、経営学を学んで実践しています。最初はラフォーレ、パルコで客単価1万円の価格帯で勝負をして、そのあとに客単価7000円の製品でルミネ、アトレに移る。最近では客単価5000円でららぽーと、イオンにと、販売チャネルと価格を緩やかに、3~4年ごとに何度も引き直しています。

それが団塊世代の経営者だと、渋谷や原宿の良き時代を引きずっている方が多い。「お客さんに向き合っているかどうかがいちばん大事なんだよ」という浪花節経営で、売上高が500億円あった会社が400億円になり、その100億円ダウンを「お前らの接客能力が落ちているからだろ」となってしまう。

確かに20年前は、雑誌に広告を打つとお客様が来店してくれて、そこでお客様にブランドのフィロソフィーや商品の説明をしており、そのうまいか下手かで商売の結果が分かれました。でも今の時代は、SNSで自ら発信をするインフルエンサーの子たちがいて、その子たちがつぶやくものが売れる時代になっています。

もしかしたら販売員は8時間もずっと接客をする必要はなくて、6時間接客をして、残りの2時間は自分のSNSで「こういう商品が入ってきてかわいいよ」と配信したほうが、明日お客様が来てくれるんじゃないか? 売るために接客トレーニングをするよりは、SNSトレーニングをさせたほうが売れるんじゃないか? 僕たちはそういう議論をしています。

いまは役員や事業部長クラスにも大号令をかけて、「希望者はMBAに行け」と言っています。普段から学ぶ意欲がある、もしくは最近急激に意欲が出てきた社員たちに、会社が環境を作ってあげて、時間もおカネも提供しようという考えです。

団塊世代の経営者の方はすばらしい人脈を持っていますから、夜おいしいワインを飲んで交流している。そのあいだに、われわれの世代は夜学校に行って勉強する。そうして、次のリーダーとして日本を背負っていきたいと考えています。

怠け者の自分を追い込むために学校がある

――石川社長は勉強好きなのでしょうか?

逆だと思います。勉強好きな人は毎日1冊本を読んだり、月に2本カンファレンスを聴きに行ったりしますけど、僕はほっとくと何もしない。大学や大学院に行くと課題が出されて調査もします。やむなしで本を読まなければいけないのです。怠け者の自分を追い込むために学校があって、行くと提出日や期日が出てくるので、さらに追い込まれる。だから学ぶ。そうするとやっぱり発見がある。

まだ僕は47歳なので分かりませんが、60歳まではずっと勉強したい。今は経営を勉強して、いかに会社を伸ばすかにしか興味がありません。でも、60歳からはもしかしたらNPOやファンドを作り、社会のために何を生かしたいか、学びたいかという視点に変わっているかもしれません。

『週刊東洋経済』2月24日号(2月19日発売)の特集は「ライフ・シフト 学び直し編」です。
秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年から再び『週刊東洋経済』編集部。24年から8年振りの記者職に復帰、現在は自動車・重工業界を担当。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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