今の世界では、アメリカだけでは何もできないのが現状です。だから、日本が強いアメリカを必要としているのと同じくらい、アメリカも強い日本を必要としているのです。そして、強い日本とは何かと言うと、経済が強い日本を指しているのです。
日本に「中国封じ込め」の役割を期待
アメリカの政治は日本が考えている以上に、「日本もアメリカと同じように、アジアや中東へのエネルギー依存を低下させなければならない。そのために、アメリカと日本はエネルギー安全保障で強く結び付かなければならない」と、世界の大局を見ながら判断しているのです。
アメリカが日本と軍事上だけでなくエネルギーでも安全保障を確立し、日本を勝ち組に押し上げようとしているのは、日本に対して経済的にも中国を抑え込む役割を期待しているからです。そこで、3点目の「TPP(環太平洋経済連携協定)」への日本の参加が、アメリカにとって非常に重要な意味を持ってくるのです。
今やアメリカの世論では、経済のグローバル化が中間層の雇用機会を奪っているという意見が一般的です。自由貿易の拡大は大企業を潤わせる一方で、中間層を苦しめているというイメージが定着しています。
それでは、オバマ政権はなぜ国民にあまり歓迎されていないTPPを熱心に推進する必要があるのでしょうか。もちろん、オバマ大統領自身も述べているように、アジアは成長著しい地域だからという理由は大きいでしょう。欧州経済が財政再建により停滞が長引く見通しの中で、国際的な輸出企業もアジア市場への参入を推し進めたいという思いが強いはずです。オバマ政権は2009~14年までの5年間でアメリカの輸出を倍増させるという公約を掲げていますが、この公約を達成するためには、急拡大するアジアの消費に大きく依存します。
しかしながら、アメリカがTPPを推し進める背景には、もっと深遠な「対中国」戦略が潜んでいるのは間違いありません。アメリカがとりわけ憂慮しているのは、中国では知的財産権の侵害やコピー商品の氾濫など、世界の経済ルールに反する行為が公然と行われているということです。これらの行為による逸失利益は少なくなく、アメリカ企業からは中国政府に対して、違法行為を取り締まるよう繰り返し要請が出されています。
また、製造業を中心に技術の流出を懸念する声は大きく、国益を損なうような中核の技術が流出すれば、中国企業が世界を席巻するようになるのではないかと危惧する意見もあります。さらには、サイバーテロや高度な軍事技術の流出に関しても、中国の関与が取りざたされています。
こうした中国がもたらすさまざまな問題に対しては、アメリカだけでなく、日本や欧州の国々も大いに悩まされています。オバマ政権はこうした諸問題に強く対処する方法として、TPPを強く推進し、中国の経済的、軍事的脅威を封じ込めようと考えているのです。
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