これがB型肝炎にかかった子どものミイラだ 500年前のミイラに新たな疑い

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教会には、子どもの棺桶のほかに数十個の木製の棺桶が安置されている。そのうちのいくつかには、アラゴン王国の王子やナポリの貴族のミイラが入っており、織物や高価な絹などで作られた衣服を身にまとっている。ミイラの多くが防腐処置を施されているが、中には乾燥した教会の中で、自然にミイラ化したものもある。

ピサ大学の古病理学者で、論文執筆に参加したジノ・フォルナチャーリはこう述べる。「サン・ドメニコ・マッジョーレ教会のミイラがほかと違うのは、その古さと保存状態のすばらしさに加えて、有名な人物が埋葬され、その生涯と死因がよく知られていることだ」。

B型肝炎でも発疹が出る

フォルナチャーリは1980年代に、初めてこの子どものミイラを調査した。彼は電子顕微鏡を使って、天然痘の痕跡と思われるものを発見した。それ以来、この子どもは欧州における初期の天然痘の典型例とされてきた。天然痘ウイルスの歴史と多様性を調べていたホームズらが、このミイラを重要な調査対象としたのはそのためだ。

顔には複数の湿疹跡が残っている(写真:Gino Fornaciari/University of Pisa via The New York Times)

2016年、ホームズのチームは17世紀のリトアニアのミイラに、天然痘の痕跡を発見した。彼らは、ナポリのミイラを分子生物学の手法で再調査することによって、欧州の天然痘の存在をさらに100年前までさかのぼれると期待していた。

「あのミイラに望みをかけていた」とポイナーは言う。「スラムダンクになるはずだったのだが、思ったとおりにはいかないものだ」。

彼らが子どものミイラのゲノム配列を特定し、分子解析を行うと、天然痘ウイルスの痕跡はまったく見つからなかった。だが、彼らはB型肝炎の痕跡を見つけた。

当初、研究者チームはこの発見にあまり関心を持たなかった。しかし、やがて彼らは、子どもがB型肝炎に感染すると「ジアノッティ症候群」と呼ばれる皮疹の症状が出ることに思い当たった。そして、子どものミイラの顔に見られる発疹は、B型肝炎ウイルスが引き起こしたものかもしれないと考えた。

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