中国経済の鈍化は世界経済の大きな重しだ 「GDP水増し」をきっかけに試算してみた

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推計の結果、中国経済の成長が政府目標程度(6.5%前後)に鈍化した場合の影響は世界経済全体に対してマイナス0.10%ポイントとなった。具体的には、日本がマイナス0.12%ポイント、EU(欧州連合)がマイナス0.14%ポイント、米国がマイナス0.08%ポイントなどの影響が予想される。マイナス0.1%ポイントであれば、小幅でほとんど影響がないといえるレベルである。

IMF(国際通貨基金)の試算によると、世界全体の成長率は2016年が3.2%、2017年は3.7%であり、世界同時回復といわれた2017年は前年対比でプラス0.5%ポイントも成長が加速した。マイナス0.1%ポイント程度の鈍化では、まだ「高成長」と評価されるだろう。

李克強指数に替えて再推計を行うと?

一方、ここからが本題だが、上述の試算を中国の公式統計であるGDP成長率ではなく、李克強指数に替えて再推計を行うと、中国経済鈍化の影響は世界経済全体に対してマイナス0.50%ポイントという結果が得られた。

具体的には、日本がマイナス0.80%ポイント、EUがマイナス0.74%ポイント、米国がマイナス0.49%ポイントなどが予想される。公式統計を用いた結果よりも影響は大きく、2017年の成長加速分(プラス0.5%ポイント)が失われるほどのインパクトが予想される。

なお、今回の試算に用いた「李克強指数ショック」は2017年の李克強指数の上振れ分が2016年の水準に回帰するという穏当な仮定によるものであり、一段と下振れれば世界経済に与える影響はさらに大きくなる。

さらに、中国の政府高官は(公式統計で)6.3%程度の成長鈍化まで許容されると発言した。これを考慮すれば、最大で世界経済にマイナス0.8%ポイントのインパクトになりそうだ。ここまで世界経済への影響が大きければ、世界経済の成長率は金融危機以来となる2%台まで鈍化する可能性がある。

なお、今回の分析は中国経済鈍化のファンダメンタルズ面への影響のみを考慮したものである。したがって、中国経済に不安が生じた場合に金融市場(特に2017年後半に急上昇した各国の株式市場)に与える影響などは分析対象としていない。これらを含めて考えれば、2018年の世界経済のリスクは一段と大きくなるだろう。

※ 3月2日(金)にも中国経済を巡る気になるデータを分析した記事を掲載する予定です。
末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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