最後が受験生3の答案だ。
(受験生3・男子の答案)
君に話さなければならないことがある。本当に申し訳ないが、君とは別に心ひかれる人ができてしまった。今はその人のことが好きで好きでしょうがない。最近、君との未来に不安を感じる。君ともっともっと過ごしていたいという気持ちが少なくなってきて、もう1人のことばかりが僕の心の中で大きくなっている。3年間も付き合って、結婚の約束までしたのに、こんな行動に出る自分を情けなく感じる。でも、こんな気持ちで、君とこのあと過ごしていっても、いつか別れることになると思う。そんなことになるよりも、お互いまた新しい幸せを目指して、ここで別れたほうがお互いのためだと思う。今まで述べてきたことが全て僕の自分勝手な言い分であるのは十分にわかっている。君にわかってもらえないことは理解しているけれど、本当の気持ちを君に伝えたかった。君には嘘をつきたくなかった。
最後に、君に感謝の意を伝えたい。僕は、中高男子校で女子との付き合いもなく、大学に入ってやっと見つけた、初めて真剣に好きになった女性が君だった。女子との会話も少なかった僕に対して、積極的に話しかけてくれて、君との会話が一番楽しく、大切なものになった。そして、君の笑顔を見るたびに、どんどん君への気持ちが大きくなっていった。君と付き合うことになったとき、本当に嬉しかった。こんな僕を好きになってくれて、そして、こんなにかけがえのない時間をくれて本当にありがとう。
自分の都合を相手に押しつけるだけ?
受験生1はたどたどしく、文章も稚拙だが、体育会系の彼らしさが出ている、と思った。別れの手紙なのに、末尾に「返事を待っています」と書き記しているあたりも、彼らしい。これでは別れるどころではない。人のいい彼なら、彼女から逆に説得され、復縁してしまう危惧さえ感じられる。
受験生2は、1浪の男子2人よりも明らかに人生経験の豊富さがうかがえ、彼女の申し訳なさがよく伝わってくる。こんな手紙をもらったら、怒るというよりも、彼女を許してしまいそうだ。素直にそんな気持ちを抱いた。
受験生3は、書き手のことをよく知っているだけに、19歳にしてはうまい筆の運びであり、すんなり難関国立大学医学部に合格していった彼らしい、と思った。そつがないのだ。ところがである。心理学を専攻した女性にこの手紙を読んでもらったところ、思わぬ厳しい評価をもらってしまった。まず、別れの言葉が突然、冒頭に書かれているため、彼女はいきなりショックを受けるというのだ。彼女は気持ちの準備がないまま、手紙を読むことになり、一方的な高圧的な力を感じると指摘する。また「その人のことが好きで好きでしょうがない」という一節は、彼の正直な気持ちなのであろうが、これを読む彼女の立場を全く理解していないという。嫉妬の炎が燃えたぎるだろうと。さらに「新しい幸せを目指して、ここで別れたほうがお互いのため」という一節も、彼が一方的に考えていることにすぎず、自分の都合を彼女に押しつけるべきではないというのだ。
手紙とは難しい。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら