「別れの手紙」を書かせるとわかる医師の資質

医学部受験「突破」への必勝法はこれだ

私には、受験生3の手紙が、19歳の男子が書いたものとしてはよい出来映えと思ったが、謝罪の言葉が一言もなく、行間に”上から目線”が感じられるのも問題なのだという。

この点、受験生2の女子の手紙は、冒頭の2行で”悪い知らせ”であることがまずわかるので、読み手は結論を知らされる前に気持ちの準備ができる点がよいという。また、「貴男以外の男性のことを考えてしまう」という表現に、ストレートに思いを伝えるのではない、彼女の配慮が感じられるのだとする。「私にはもうその資格がない」「貴男の心を裏切っている」「貴男を傷付けてしまった」という表現にも、自分を卑下する感情が素直に表われており、読み手は彼女を責める気持ちが萎えてしまうという。「ごめんなさい」という謝罪の言葉が2回あることも、彼女の相手を思いやる気持ちがよく伝わり、誠実な感じがするとのことだった。

医学部入試の2次試験で、なぜ、別れの手紙を書かせるのか。問題を見ただけでは、全く疑問符がつくような不思議な出題である。しかし、やはり医学部の入学試験として、意味は存在するのだ。本質に立ち返り、なぜ、このような出題がなされたのかを検証すると、出題者である医学部側の狙いが透けて見えてくる。

検証する際に重要なことは、この試験が”医師になる人を選抜するために行われている”ということだ。もちろんそこで問われるのは、過去にも紹介してきたように、医師が備えるべき能力・資質である。それでは本問で問われる、医師の能力・資質とは、いったい何か。

突き付けられる、患者への病状説明

医師には、無理難題をぶつけてくるモンスター・ペイシェントとまではいかなくとも、患者や患者の家族との関係でさまざまな難局がある。杏林大学医学部の本年の出題ではないが、触らずに済まされない神もいる。一方で、苦難が伴おうとも、触らずにはいられない患者はいる。このことは何も患者の話に尽きるものでない。医師にはチーム医療の構成員の意見をとりまとめる力も要求されよう。なかなか奥が深い。

知人の医師らにこの問題を見せて感想を聞いたところ、「積極的治療を行っていた患者に対し、満足のいく治療成果が得られなかった場合、患者は不満に思うだろう。その場合、医師は患者に、どのように説明を試みるべきか。転医も含め、患者への病状説明を適切に乗り切れる適性を有しているか、測っているのではないか」(横山一彦医師ら複数の医師)との答えが返ってきた。なるほどである。

近年、医学部の面接試験で、「国際紛争はどうしたらなくなるか」や「隣国とうまくやっていくにはどうするか」など、医学とは一見無関係に思える質問が増えているのも、根底には対人調整能力を探る意図があるのだろう。私はこの種の質問については、人間のあるべき姿、社会で人が生きていくうえで人と人との関係が円滑にいくようにするにはどうすべきかを考えなさい、と前置きしてから、「『対話と調整』が何よりも重要です」と答えるようにと指導している。

首都圏のある国立大学の面接試験での出来事。「治療に文句を言ってくる患者がいたらどうするか」と質問されたという。やや圧迫気味な面接であるが、同様な質問が重複してなされたという。教え子はそのたびに「対話と調整が何よりも重要です」とシンプルに回答した。面接官はニヤリと笑って、さらに厳しく突っ込んではこなかったようだ。

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