安倍首相の目指すものが「改革」から「革命」へ 首相発言に見る言葉の「インフレ」
安倍内閣では、2016年5月に経済財政諮問会議が骨太方針で、人材育成や研究開発投資を促進するという「生産革命」を打ち出し、以後、首相が言及するようになった。また、2017年6月には、首相が記者会見で「人づくり革命」という言葉を持ち出した。ここからは2つの革命がしばしば並列して使われている。
これに対して共産党の小池晃書記局長が記者会見でわざわざ「革命という言葉を軽々しく使わないでほしい」と苦言を呈した。共産党にとって「革命」とは権力の交代、さらに言えば階級闘争によって政治権力が入れ替わることを意味する重いものである。彼らの定義からすると安倍首相の言う「革命」は別物ということだろう。共産党幹部がクレームをつけるほどだから、首相が自らの政策を「革命」と名付けることはそれなりに目立ったようだ。
では安倍首相の掲げた「革命」の実態はどうか。首相が「革命」を口にすれば、官僚組織は黙って見ているわけにはいかない。中央省庁は首相の意向に沿う政策を掲げて予算獲得に奔走する。一例を挙げよう。国土交通省は省内に大臣以下局長級官僚をメンバーとする「生産性革命本部」を作り、革命を実現するための「生産性革命プロジェクト20」をまとめた。
中央省庁に「革命本部」を設置するというのもすごい話である。しかし、打ち出されたプロジェクトの内容はあぜんとするようなものだった。
従来ある「対策」が「革命」に早変わり
具体策として並んでいるのは、高速道路の拡幅など「ピンポイント渋滞対策」、「高速道路を賢く使う料金」、空き家対策などの「不動産最適活用の促進」、「ダム再生」、羽田空港の飛行経路見直しに伴う設備の整備など「航空インフラ革命」、大都市圏における混雑を原因とした遅延を防止・解消する対策「鉄道生産性革命」などなど。
要するに国交省が掲げてきたこれまでの政策に単に「革命」の名をつけただけである。しかしそれぞれは首相の意向に沿った政策であるから予算を増額すべきだと財務省相手に折衝しよう、という思惑が見え見えの「革命」なのである。
ほかの役所も似たり寄ったりで、「革命準備室」のような組織を作って、予算要求案を作り出すなどしている。首相は声高らかに「革命」を叫ぶが、足元の官僚組織はこれ幸いと既得権の維持・拡大に汗を流している。これでは革命も改革も実現するわけがない。「改革」や「革命」が政権の人気取りのためだけではなく、既得権維持に利用されているというのは皮肉な話だ。
いうまでもないことだが、いま本当に必要な「革命」は何か。1000兆円を超す累積債務を抱える「財政危機突破革命」であったり、長期的に維持不可能といわれている「社会保障制度革命」であろう。残念ながらこれらにはまだまったく手がつけられていない。
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