「わかっちゃいるけど、せつないですよね。どんな男なのか相手の顔は見えないけど、僕は負けたわけですから、プライドが傷つきますよ」
「今夜は帰りたくない」と言われても…
3人目の交際女性、久野木智美(37歳、仮名)は、婚活パーティで出会い、マッチングした相手だった。バツイチなので男女交際にもこなれた感があり、お付き合いが始まったばかりの頃、これまでの女性とは違った確かな手応えを感じていたようだった。
「婚活市場にいる女性って、消極的な人が多いじゃないですか。彼女は積極的にメールを入れてくれるし、気持ちを直球で伝えてくれた。はじめてデートしたとき、“パーティで会ったときから、決めていました”と言われたんです。この間のメールには、“則雄さんは、とても気になる人です”とか書かれていて。今度こそうまくいきそうな気がしています」
経過報告をしてきた則雄の声が、弾んでいた。ところが、3度目のデートのときにとんでもない告白を智美からされた。
「私は隠し立てをしてお付き合いをすることができないので、お話ししておきますね。則雄さん以外に、もう1人気になる男性がいます。あと、明日の日曜日は、公務員の男性とお見合いをします」
もちろん、お見合い上のルールで、真剣交際に入るまで何人とお見合いしてもお付き合いしてもいいことは、則雄もわかっていた。ただ二股をかけていて、さらにこれから見合いもすることを公言されると、これまで智美の言葉を素直に受け取り、喜んでいた自分がなんだかバカらしく思えてきた。
そこで、憮然とした口調でこう返した。
「僕は、智美さんの行動を制限できる立場ではないし、このシステムで活動している以上、僕も智美さん以外に会ってみたい女性が出てきたらお見合いしようと思っていますよ。ただ、今は智美さんに選んでもらえるように、頑張るだけです」
場の空気が一気にしらけてしまった。すると、智美は身の上話を始めたという。両親はともに一部上場企業の会社員で、とても厳しく育てられた。母親は高給取りだったが、体罰を肯定する人だったのでよくたたかれて育った。両親は仲が悪く、智美が中3のときに一度離婚をしたのだが、高2のときによりを戻した。再婚してみると、また互いを罵り合うケンカの日々。そんな家から飛び出したくて、大学を卒業してすぐに50代の男性と結婚した。ところが結婚をしてみたら、その男性は父親そっくりな人で、彼の言うことに逆らうと、暴力的な言葉を浴びせるモラハラだった。最初は言葉だけだったが、暴力も振るわれるようになり、2年で離婚をした。
則雄は、私に言った。
「彼女は、ご両親にも結婚相手にも恵まれなかったから、こちらの愛情をはかろうと、喜ばせるようなことを言ったり、ほかの男性の影をチラつかせて嫉妬心を煽ろうとしたりするんだなと思ったんです。そして、なによりもびっくりしたのが、その日の帰り道、駅まで送ろうとしたら、『今夜は帰りたくない』って言ってきたんですよ。僕だって男ですから、据え膳食わぬはなんとやら。だけど、結婚相談所の出会いである以上、体の関係になったら成婚。責任を取らないといけない。こんな支離滅裂、情緒不安定な女性と自分は結婚できるのかと考えたら、その夜泊まることには二の足を踏んでしまいました」
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