医学の素人が12万人救う器具をつくれた理由

「余命10年」娘の病気に挑み続けた夫婦の戦い

宣政さんは工場の一角に自作の研究室を作り、仕事の傍ら人工心臓の開発を始めた。自宅のある愛知から、東京の大学病院へ通っては、専門医から知識を教わる日々。そして3年後。ようやく試作段階までこぎつけたのだが、そこには想像以上のハードルがあった。

佳美さんは9歳の時、三尖弁閉鎖症という難病により余命10年と宣告された(写真:フジテレビ提供)

人工心臓の元となる金型をひとつ作るにも、掛かる費用は200万円以上。貯めていた2000万円もあっという間に底をついた。しかも完成するメドも立たない製品の開発に融資する銀行など、どこにもなかった。

そこで宣政さんは、新たに医療器具の製造会社を立ち上げ、公的資金の援助を受けながら、開発を続ける。

それでも、試作品は失敗続き。一向にうまくいかない。そんな中で、唯一の救いは佳美さんが高校に進学できたことだった。余命10年と宣告されてから、すでに8年の月日が流れていた。

数十億円にも上る費用が必要なことが判明

国産初のバルーンカテーテルを開発した筒井宣政さんの妻、陽子さん。「奇跡体験!アンビリバボー」(フジテレビ系)は2月1日(木)よる19時57分から放送です(写真:フジテレビ提供)

翌年、ようやく試作品を使った動物実験にまでこぎ着けるが、ここでも問題が生じた。人工心臓のような新しい医療機器を開発する場合、厚生省(現厚生労働省)の認可を得て、人に対して使用する前に、少なくとも100頭の動物実験を行わなければならない。施設の維持費や獣医や医師の人件費など、その費用は数十億円にも上ることが判明したのだ。

それだけではない。佳美さんの病状も悪化の一途をたどっていた。この頃には、たとえ人工心臓が完成したとしても、もはや完治は不可能なほど、深刻な事態に陥っていた。「人工心臓の開発を断念する」。それは、娘の命を救うという夢をあきらめることを意味していた。

しかし、宣政さんはそのことを娘に伝えられずにいた。

そんな時だった。

佳美さんは自らの運命を悟ったかのように、父にこう告げた。

「これからはその知識を、自分と同じように病気で苦しんでいる人のために使って」

この後、娘のために続けてきた研究が思わぬ形で、新たな道を切り開くことになる。

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