「創造的人生の時間」は10年なのか?

バイオベンチャー社長、窪田良氏インタビュー(下)

――日本全体がいきなり変わるのは非現実的ですから、まずはそうしたポジティブなコミュニティを作って行くことが肝心ですね。

そうです。少しずつ小さいコミュニティを作って、成功例を作って、それを広げていけばいい。大事なのは、サステナビリティです。自立的にそれが広がっていくような仕組みを作らないと、旗振り役がいなくなった瞬間にダメになってしまう。

窪田良(くぼた・りょう)
1966年兵庫県出身。慶應義塾大学医学部で博士号取得。眼科の臨床医を経て、研究医に転身。1998年には緑内障原因遺伝子であるミオシリンを発見し、「須田賞」を受賞。2000年より米国に移住。米ワシントン大学医学部でフェローおよび助教授として勤務後、2002年にバイオベンチャー、Acucela社を創業。「飲み薬による失明の治療」を目指し、新薬開発に挑む。

世代や立場を超えて、コミュニティを維持するには、クラスター(シリコンバレーのように、特定地域にベンチャーや大学が集結すること)がカギになります。起業家やビジネスパーソンや学生が、たまたま会ったり、ちょっとした時間の合間に会ったりしようと思える距離にいることが非常に重要です。

私は今でも、後輩の起業家から面談のリクエストがあれば、できるだけ時間を作っています。1人と会う時間は30分と決めて、会社の下にあるスターバックスで話すのです。それは自分の気分転換になるし、若い起業家のエネルギーをもらうこともできます。そうした出会いが起こりやすい環境が、シアトルにはあるわけです。

シアトルでは、今は何も持っていない若者が、5年後には、自分の10倍、100倍、1000倍の会社を創っている可能性はいくらでもあります。そういう前提が社会にあると、いろんな人に会おうという意欲が高まります。「こんな若者に会ってもしょうがない」と考えるのではなく、そういう人たちこそ、自分が想像できないような技術革新を起こして、大きなインパクトを残す人になるかもしれないということを、肝に銘じるべきです。

今の日本には、アクセル踏みながらブレーキを踏んでいるような人をよく見掛けますが、もっとアクセルを強く踏み込んでもいい。メディアも、失敗した人を落とすのではなく、アクセルを踏み込んでいる人に注目したほうがいい。もうちょっと「いいね」ボタンを押すようなメディアがたくさん出てくれば、いいバランスになる気がします。

だいいち、誰かが楽しいことを起こしているのを聞くと、みんな元気をもらえるじゃないですか。一方、「他人の不幸は蜜の味」みたいな感覚が広がると、社会がマイナスの方向にシフトしてしまう。自分を鏡で見たときに、誰かの不幸を喜んでいる自分よりも、誰かが成功しているのを応援する自分のほうが、誇りが持てるし、健全だと感じるはずです。そうしたポジティブな姿勢をどう仕組みとして社会にちりばめて行くかに、私は非常に興味があります。

多くの人間が、「他人によく見られたい」「自分をよくしたい」という思いを内在的に持っていますから、そこにちょっと関心を向けてあげたら、ずいぶん社会がポジティブな方向にシフトすると思います。

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