「横浜傾きマンション」、泥沼法廷闘争の行方 建て替え関連費用460億円をめぐって泥仕合

拡大
縮小

さらに、三井不動産レジデンシャルが裁判所に提出した証拠書類には、三井住友建設の社内メールが挟み込まれており、それにより「法的手続きを考慮すると、全棟建て替えは避けられない」という旨の会話がなされていたことがわかった。いったいどういうことか。

傾斜マンション自体は2007年の竣工だが、その後の法改正により規定に適合しない建物(既存不適格)となっていた。既存不適格の建物を改築するには、現行法に適合させる工事も同時に必要になる。

1棟だけの建て替えは建築基準法違反?

ここでパークシティLaLa横浜の独特な構造が立ちはだかる。マンション4棟のうち傾斜が確認されたのは1棟のみだが、4棟はそれぞれ渡り廊下でつながっているため、建築基準法では丸ごと1棟と見なされる。つまり傾斜した1棟に手を加えようとするなら、その他の3棟についても工事が必要だ。

さらに消防法の改正が追い打ちをかけた。特殊な吹き抜けを持つこのマンションは、消防法上避難経路が確保しにくく、火災の熱を逃がしづらい構造とされ、全住戸にスプリンクラーの設置が必要となった。各住戸で直接工事が必要で、全705戸もの大規模な配管工事をするには、住民の一時転居が必至だ。

そのほか、住戸の採光確保といったハードルを越えることができず、三井住友建設の社内メールでは「結局全棟建て替えになる」と結論づけられている。

いずれにせよ、被告3社が敗訴した場合、巨額損失を被ることは必至だ。施工不良に関して直接の責任がある旭化成建材の直近の営業利益はわずか43億円。460億円もの費用などとても背負いきれない。

三井住友建設や日立ハイテクノロジーズにしても、建て替え費用については「業績への影響が不明」という理由で引き当てていないため、1年間で稼いだ利益が吹き飛ぶ計算だ。

本訴訟に対して、三井住友建設は「弊社の主張は裁判で明らかにするため、コメントできない」としている。

一井 純 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT