2012年末、立花は米国に飛んだ。テネシー州ナッシュビルでウインターミーティング(メジャー関係者がトレードやFA〈フリーエージェント〉選手の交渉などを行う場)に参加していた担当スカウトと合流し、ジョーンズと直接交渉すべく、アトランタまで車を4時間走らせた。
夕刻、現地のレストランで席に着くや、立花はジョーンズに言った。
「私は元証券マンだ。君とディールをしに来た。わざわざお茶を飲みに来たわけではない」
前交渉で金銭面は双方の合意ラインにあったが、立花はジョーンズの熱意や人間性を直接確かめたかった。過去に来日した大物メジャーリーガーの中で、傲慢な態度が災いしてすぐに帰国した選手も少なくない。ジョーンズが上から目線なら、立花は断るつもりだった。
しかし、大柄なオランダ人は人格者だった。ひざを付き合わせて4時間、ブレーブス時代に10年連続で地区優勝した経験や野球への情熱を聞くにつれ、ジョーンズの自信みなぎる態度に立花は魅了されていく。
「正直、ジョーンズが打つか否かは、来日してみないとわからない。でも、あの自信がチームに必要だと思った」
社長自ら交渉に来たことに感激したジョーンズは、鳴り物入りで来日した。真摯な態度で日本球界に溶け込もうとし、前向きな姿勢で周囲の尊敬を勝ち得ていく。
ジョーンズの同志にマギーを選んだ理由
ジョーンズがすぐにチームになじめた背景には、立花の打った手も関係している。彼とアトランタで入団交渉を行った際、「もうひとりの外国人選手は誰がいい?」と尋ねていたのだ。そうして獲得したのがマギーだった。楽天がリストアップしていたマギーはヤンキースでジョーンズとともにプレーし、「右の長距離砲」という補強ポイントにも合致していた。異国に来る外国人にとって、同じ言語で話せる友人の存在は心強い。立花は証券マン時代に米国勤務の経験があり、外国人の気持ちを理解していた。
マギーにとっても、ジョーンズは頼れる同志だ。2010年にメジャーで104打点を挙げたことのあるマギーは、ジョーンズの偉大さをよくわかっている。未知なる新天地で、尊敬できる選手と共にプレーできることは、マギーのモチベーションになった。2人はチームを牽引し、ジョーンズがリーグ4位タイの24本塁打を放てば、マギーは同3位の28本塁打、同2位の90打点と打線の核になっている(今季の成績は9月25日時点)。周囲は「チャンスで2人に回そう」と出塁し、得点パターンが構築されていった。
優勝を争う夏場、チーム全員で出掛けた食事の場でマギーが言った。
「俺は楽天でジョーンズと一緒にプレーできることを誇りに思う。ここまでいい成績を残せているのも、彼のいるおかげだ」
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