「外国人起業家」が考える日本で成功するコツ 来日20年で日本も大きく変わったが

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会社を経営するのは容易ではないが、ライアン氏はビジネスオーナーになって正解だったと話す。「以前はハーマン・ミラーの収益構造や収益性が詳しくわからず、落ち着かなかった。会社の計画も知らなかったが、今はそういうこともわかるようになって幸せだ」(ライアン氏)。

とはいえ、安定したキャッシュフローを維持することは容易ではない。「外へ出てセールスをしながら、オフィスの家賃や従業員の給料を払わないといけない。つねにその心配がある」とライアン氏は話す。「起業や会社経営がどんなにストレスがたまることなのかを語る人がいないので、その大変さは過小評価されている」。

日本で成功するコツは?

日本を訪れてから約20年、日本市場も大きく変わった。前述のとおり、人口減がすさまじい勢いで進んでおり、従来のやり方が通用しなくなる可能性もある。こうした中、ライアン氏は「われわれは世界トップレベルのオフィス家具を、日本で成功している企業に販売するという戦略にぶれがないようにしている」と話す。

人口減や人手不足は悪い話だけではないとも捉えている。今後は企業が有能な社員を獲得するために、オフィス環境の改善に取り組むことが期待されるからだ。家やカフェなどオフィス以外で働く機会も増えており、これもオフィス家具会社にとっては追い風だとライアン氏は見る。また、「日本企業や企業リーダーはこの20年のうちにより現実的になり、自社の利益だけではなく、取引先とウィンウィンになるような形を考えるようになったのではないか」(ライアン氏)。

ライアン氏からすると、日本は起業に関わる事務的な手間などがかからないことから、比較的ビジネスを始めやすい環境にある。その中で新規顧客を開拓しながら、既存顧客を維持するには「クリアな戦略とすばらしい商品、優秀な社員、効率的な工程が必要だ」とライアン氏。「社員がつねに顧客に集中できるような環境を作らなければならない」。

そんな同氏は、日本進出を目指す外資系企業や、外国人起業家からアドバイスを求められることが少なくない。そんな時ライアン氏は、まず売り出そうとしている商品やサービスが、なぜ母国を含めて日本以外の市場で成功したのか見極め、それが日本でも通用するか検証することを勧めている。「コストコのように、日本で想像以上に成功しているケースもあるが、大事なのは自社の商品やサービスの強みが他で通用するのかをきちんと考えることだ」(ライアン氏)。

その上で次に、「事業を始めるのにかかる時間とコストを想定の2倍に見積もり、売り上げは想定の半分に見積もる。それがより現実に近い数字になる」。外国人が日本で事業を始めるのは簡単ではないはずだ。だが、ライアン氏のように基本を守れば、日本は起業家にとってそれほど憂鬱な国ではないのかもしれない。

リチャード・ソロモン 経済ライター、Beacon Reports発行人

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Richard Solomon

英ロンドン・ビジネス・スクール卒。欧州のICT業界向けメディア、ESNメディアグループの発行を手掛けた後、来日。日本社会が抱える問題や日本のリーダーなどに関するメディアBeacon Reportsを発行。The Nikkei Asian ReviewやThe Japan Timesなどにも寄稿している。

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