その後由美は、佐伯との結婚をより確実なものにするために、外堀を埋める作戦に出た。逗子に日帰りデートをした帰り道、由美の地元を案内し、自宅に寄って両親に佐伯を紹介した。突然のことだったが、佐伯は嫌がる素振りも見せず、由美の両親の前で紳士然としたあいさつをした。
「今お嬢様とお付き合いさせていただいている佐伯と申します。とてもすてきな女性ですし、大切に思っています。日を改めましてお許しをいただきに参りますが、結婚も真剣に考えております」
由美は、“結婚”という言葉を佐伯が出してくれたことがうれしかったようで、このことをその日の夜に、私にメールで報告をしてきた。
おカネに関する考え方の違い
ところが、結婚という言葉が出て、具体的にそこに向かう話が進んでいくうちに、だんだんと雲行きが怪しくなってきた。結婚生活の話になると2人の考え方にかみ合わない部分が多く出てくるようになったからだ。ことおカネに関する考え方が大きく違っていた。
由美は私に言った。
「佐伯さんは、『結婚したら、生活費をキミに預けるけれど、僕が15万、あなたが15万、母が15万、45万で生活できるかな』と言ってきたんですね」
つまり、3人できれいに等分して出し合う。しかし、由美は、年老いた母からも同じ金額の生活費を取ろうとしている彼の了見が理解できなかった。
また、結婚したら今の仕事を辞めるつもりでいた。宝石のようなきれいなものに囲まれて仕事をするのは楽しい。しかし、今の職場は人間関係がうまくいっていなかった。女店長の性格がキツく、販売員がどんどん辞めていくので、入れ替わりが激しい。新人に仕事を教え面倒な仕事を処理するのは由美の役目だった。立ちっぱなしの仕事も、今後年齢的にキツくなっていくだろう。今と同じだけの給料を稼げなくてもいいから、自分にできる好きな仕事を見つけたい。そんな転職を見据えての婚活でもあった。
「私が、『結婚したら今の会社を辞めたい』と言ったら、すごく反対されたんです。『えっ? 働かないの? 僕は専業主婦は望んでいないよ』って。だから私、『働くけれど、今の会社は辞めて転職をしたい』と言ったんですね。そうしたら『転職はいいけれど、パートタイムの仕事は困るな』って言うんですよ」
すると、そこから佐伯は持論を展開しだした。
「女性は自立していてこそ、魅力的だ。僕が今まで付き合ってきた女性は、生き生きとプライドを持って仕事をしていた人たちばかりだった。食事をした後に、『ごちそうさま』と笑顔で言って財布を開かないような女性は、依存心が強く、自分のことは棚上げして男性に多くを求めすぎる。結婚はお互いが生活を築いていくものなのだから、立場はフィフティフィフティ。そう考えられる女性と僕は結婚したい」
実際、佐伯とのデートは、食事をするときっちり割り勘ではないものの、由美も半分弱は支払いをしていたという。
「どうしてこんなにおカネのことばかり言うんだろう、って。佐伯さんの年収なら、ぜいたくをしなければ奥さんが働かなくてもやっていけるはず。もちろん私は、専業主婦になるつもりはありませんけど」
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