好きな相手との結婚。本来なら手放しで喜ぶべきことだ。しかし今回のケースはいかがなものか。ルール違反もさることながら、佐伯の取った行動が私にはどうも腑に落ちなかった。最初から、交際終了にした後に由美に連絡を入れるつもりではなかったのか?
「佐伯さんは、相談所にまだ登録しているの?」
「はい、でも今は休会しているって言ってました」
なるほど。彼のもくろみが見えた気がした。見合いをして結婚できそうな女性に当たりをつけ、いったん交際を終了させてから自分は“休会”をする。休会している会員に関して相談所は、活動状況を把握、管理しなくなる。交際終了した女性に再び連絡を取っていることも知らないだろうし、“休会”からそのまま“退会”をしたとしても、相談所は結婚を決めての退会だとは思わない。由美と結婚までたどりつけなかったら、休会を解除してまた活動を復活させればいい。
このやり方なら、結婚相談所で相手を見つけ、成婚料を払わずに退会するのを、仲人に怪しまれることなくやってのけることができる。
佐伯の相談所に連絡を入れようかとも思ったが、うまくいっている2人にここで水を差すのもはばかられた。また、このまま2人が結婚するかどうかもわからない。というよりもこの2人は結婚に至らないような気がした。ルールを犯す人間は、どこかで馬脚を露わすものだ。
ひとまずここは2人の成り行きを見守り、本当に結婚することになったら、ことの経緯を佐伯の相談所に報告することにした。
結婚を難しくさせる3タイプの女性
仲人の経験則から言えば、30代40代になっても独身でいる女性は大きく3つのタイプに分けられる。
まずは、恋多き女タイプ。恋愛に刺激とドラマを求めるので、好きになる相手を見誤ることが多い。自分を結婚相手に選ばない男性ばかりを好きになり、気がつけば適齢期を過ぎている。次に、高学歴、高収入のバリキャリ。なんでも論理的に考える癖があるので、恋愛も頭で考えてしまうから気持ちが動かない。年を重ねていくうちに何を選択すれば結婚できるのかがわからなくなっている。3つ目は、これまで一度も恋愛をしてこなかったタイプ。経験がないから、何からどう恋愛を始めたらいいのか、そのやり方がわからない。
由美は、典型的な恋多き女タイプだった。大学を卒業後、イタリアに語学留学をし、そこで宝石に魅せられて、帰国後に現在のジュエリー会社に入った。自社のシンプルな高級ジュエリーをいつもさりげなく身に着けているおしゃれな女性だ。学生時代も社会に出てからも、たくさんの刺激的な恋愛をし、20代後半で一度婚約したものの、その彼とは最後の最後で結婚には踏み切れずに自分から婚約破棄をした。
由美のような恋多きタイプが、結婚相談所で結婚相手を見つけるのは、とても難しい。相談所の場合まずは条件で相手を選び、ホテルのティールームにお見合いに行く、いわば安全地帯での婚活だからだ。電光石火の恋愛ドラマは、そこでは起こらない。
ただ、佐伯との出会いには、ドラマとまではいかないものの、それまでの見合いとは違ったドキッとする要素がいくつかあった。
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