そして3カ月後、そろそろ春という季節に松っちゃんとたまたま再会した。お酒の自動販売機の前に置かれたベンチに座っていた。昼間から酔っている。
そして近づくと、松っちゃんのアゴが痛々しく割れているのが見えた。
「またシノギ屋にやられたんよ。今度はアゴを蹴られた。下の歯3本が折れたわ。でも骨は折れとらん。元々格闘技やってたから骨は強いんよ」
とニヤリと笑う。格闘技をしててもアゴの骨は鍛えられないだろう。たまたま折れなかっただけだ。「気をつけてくださいよ」と言うと「わかったから酒をおごってくれ」と言われる。言われるままにお酒をおごり、その場を後にした。
「がんになったんよ」
そしてその年の夏。三たび松っちゃんと出会った。夏祭りの会場のはじっこに松っちゃんは立っていた。今回は幸い怪我をしていなかったが、前に会った時より一回り小さくなったように感じた。
「そうなんよ。わかる? がんになったんよ」
衝撃的なことをあんまりにもさらりと言うから、言葉を失ってしまった。
その僕の様子が「がんだ」という告白を疑っているように見えたらしい。
「嘘じゃないんよ。ほんまにがんなんよ。多分もう先はあんまり長くないわ」
松っちゃんはなんだか妙に明るく、嬉しいできごとのように話した。
「かわいそうやと思うならお酒おごって」
と笑顔で言う。
松っちゃんはその日も飲んで飲んで泥酔して、公園で横になってお尻を半分見せながら眠ってしまった。
そして松っちゃんが目覚める前に別れた。それ以来会っていない。
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