警察官からホームレスになった酒乱男の末路

それでも彼は大阪・西成を愛し続けた

見ると、段ボールの上にあぐらをかいた男性がいた。僕はポケットからHOPEを取り出すと、箱ごと彼に渡した。僕はずいぶん前にタバコをやめているが、ホームレスの取材をする時は、お礼に渡せるよういつもタバコやお酒を持ち歩いている。

彼は「ありがとう! ありがとう!」と嬉しそうに礼を言うと「わしは松村や。松っちゃんと呼んでくれてええよ」と笑顔で簡単に自己紹介した。

そして自前の100円ライターでタバコの先に火をつけた。

今ではおとなしい老犬が何匹かいるだけになっている(筆者撮影)

小さな炎に照らされた彼の顔を見ると50代後半、小太りで丸顔のおじさんだった。西成のホームレスの中では若い。目鼻立ちのはっきりした、愛嬌のある顔をしている。

そして左目の周りが赤く腫れて大きなアザができていた。

「ん、これか? 昨日シノギにあったんや。飯場(はんば)で稼いできた6万円を全部持っていかれた。今はスッカラカンや」

としょげた顔で語る。飯場とは、宿と飯がついた労働現場、シノギとは、ホームレスから物を盗む泥棒の俗称だ。場所によってはマグロとも呼ばれる。

西成のシノギは荒っぽいと以前からよく聞く。彼らは被害者が追いかけて来られなくするため暴力を振るうのだが、中にはナタでアキレス腱をバンッと切って行くシノギもいると聞いた。

「シノギのやつらは、飯場から帰ってきて現金を持ってる人間を嗅ぎ分けるんよ。それでわしが飯場から帰ってくると、いっつもおカネとられてしまうんや」

「それでも西成が好きなんよ。人情がある街」

松っちゃんがおカネをとられたのは、今回が初めてではない。飯場からおカネを持って西成に帰ってくるたび、酔っ払って寝ている時を狙ってシノギに襲われカネを奪われるという。

「だったら西成ではない街に帰ればいいのでは?」と僕が忠言すると、松っちゃんは首を横に振った。

「それでも西成が好きなんよ。人情ある街やからね。あいさつすると、あいさつ返してくれるしな、友達もぎょうさんいる。こう見えてもええ街なんよ」

と語った。ならばせめてドヤやサウナに泊まったらよいと思う。おカネがもったいないと感じるかもしれないが、どうせとられてしまうなら使ってしまったほうがよい。

「そう思ってるんよ、いつも。でも飲んでるうちにわけがわからなくなって、寝てしまって、目が覚めたら殴られてカネとられてるんや……」

どうやら松っちゃんはお酒で身を持ち崩したタイプらしい。お酒が原因でホームレスになる人は少なくない。酒癖が悪くて人間関係を壊してしまったり、昼から飲んで仕事に行かなくなってクビになったりする。そのまま酒に溺れ続けて廃人になる人は多い。

でもキチンとおカネをもらってこられたのだから、飯場ではまともには働けていたわけだ。ならば完全なアルコール中毒というわけではない。

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