幼児教育無償化は、待機児童対策に悪影響だ 教育支出の格差が広がる可能性もある

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1つ目は、「リンゴをくださいと言ったのにミカンを渡される」という落とし穴です。

「子育て安心プラン」を詳細に見ると、受け皿の確保内容に企業主導型保育事業や認証保育所などの認可外保育施設も含まれています。

もちろん、これらも重要な保育資源ですが、そもそも待機児童数とは、認可の保育施設(保育所、認定こども園、小規模保育、家庭的保育など)を希望して入れなかった子どもの数だったはずです。ところが今は、認可の保育施設に入れなかった子どもの数から、企業主導型保育や認証保育所などの利用者、その他の数を差し引いて、待機児童数が算出されています。

そのため、認可の保育施設に申し込んで入れなかった子どもが何百人もいる自治体で、「待機児童ゼロ」が宣言されるという不思議な現象が起こっているのです。これをある母親は「リンゴをくださいと言ったのにミカンを渡されて、それでいいことにされる」と表現しました。このように算出された32万人という数値や、その内容には疑問の声が上がっています。

保護者が認可の保育施設にこだわるのには理由があります。認可外保育施設で質の格差が大きくなっていますが、実は今、認可の保育施設でも同じことが起きています。それでも保育士や保育室面積に関する基準が認可外よりも高く、自治体の事業として実施されているため、責任の所在が明確である安心感があります。

何よりも世帯所得や子どもの数に応じて保育料が大幅に軽減されるしくみの恩恵は大きく、ほとんどの保護者が認可の保育施設を第一希望にしているのです。

保育士の待遇が低すぎる

2つ目は、「施設はつくったけれど、保育士がいない」という落とし穴です。

現在、深刻な保育士不足が全国的に広がり、定員どおりの園児募集ができない保育施設も現れています。その第一の原因は、保育士の待遇の低さにあります。

厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」でみても、全国の保育士の平均年収は約327万円で、全産業平均の約490万円(女性平均376万円)よりも大幅に低くなっています。保育士は小学生女子の「将来なりたい職業」ランキングで1位になるほど人気の仕事ですが、このような実情を見て保育士になる夢をあきらめる志望者もいます。

保育士不足は保育の質にも悪影響を与えます。乳幼児の発達は、養育者のかかわり方に左右される部分が大きいことが各種研究でも明らかになっていますが、労働市場の原理からしても、その資質を備えた人材が集まらなくなる恐れがあるからです。

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