幼児教育無償化は、待機児童対策に悪影響だ 教育支出の格差が広がる可能性もある
保育所利用の効果について分析した東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎准教授も疑問を投げかけます。
「国の大規模調査を使った分析で、社会経済的に恵まれない家庭の子どものうち、2歳時点で保育所を利用していた子どもの多動性・攻撃性が、利用していなかった子どもよりも改善していることがわかりました。保育所の利用が、恵まれない家庭の子どもの発達によい影響を与えていると考えられるのです。しかし、待機児童が多い地域では、恵まれない家庭であっても保育所の利用が保障されていません。優先すべきは、恵まれない家庭が保育所を利用できるように十分に供給することであり、優先措置の拡大も検討すべきです」
つまり、3~5歳を対象とした一律の幼児教育の無償化政策は、日本の現状に対してプラスの効果をもたらさないと予測されているのです。
先行した韓国で起こっていること
韓国では2013年から幼児教育の無償化が実施されましたが、東洋大学客員研究員の朴志允さんは、韓国の経験から一律の無償化に警鐘を鳴らします。
「2015年ごろから保育園での園児虐待事件が相次いで起こり、保育の質の低下が社会問題になっています。その背景には、保育士の賃金の低さがあるといわれていますが、改善するための財源がありません。完全無償化を中止して、高所得層に負担を求めるべきという議論もあります。無償化のために保育の質が下がれば、子どもが被害を受けます」
制度が異なるため、韓国で起こっていることをそのまま当てはめることはできませんが、日本でも現在、保育士の待遇が低く全体的な資質の低下が問題となっていること、財源は決して無限ではないことなどを考えれば、懸念が膨らみます。
これだけ多方面の指摘がある中でこのまま進めてよいのか、今一度、現状に即した議論を行うべきだと思います。
私の周囲の子育て中の親たちは「みんなが保育園に入れるようになるためだったら、払えるおカネは払う」と言っています。
子どものために大きな財源が確保されることはよいことですが、それをムダに使ってしまったら、そのツケを払うのは、子どもの世代なのです。
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