幼児教育無償化は、待機児童対策に悪影響だ 教育支出の格差が広がる可能性もある
国が費用を負担する民間保育所の常勤保育士は約21万人。厚生労働省子ども家庭局保育課によれば、「子育て安心プラン」による約32万人の受け皿整備のためには、保育士を7.7万人増やす必要があると見込まれているとのことです。
28.7万人の賃金を年収で48万円(月額4万円)上げて全産業女子平均に近づけるとすれば、追加で約1378億円の財源が必要となります(賃上げ部分のみ)。
2兆円パッケージでは、保育士の待遇改善として当面1%(月額3000円)程度の賃上げが予定されていますが、その財源を計算すると100億円程度にしかなりません。もっとインパクトのある待遇改善が必要であることは言うまでもありません。
かつての教員不足も看護師不足も、思い切った財源確保による賃上げによって解決されてきたのです。次は保育士の番です。
このままで行くと、幼児教育の無償化のために待機児童対策が滞るばかりか、無償化アナウンスがさらなる保育ニーズを呼び、待機児童解消はますます遠のくように見えます。
優先順位の問題だけではなく、政策としての効果にもたくさんの疑問が投げかけられています。
幼児教育無償化政策の本来のねらいは、次のような点にあると考えられます。
(1)貧困など不利な立場にいる子どもが質の高い幼児教育を受けられるようにすることで、子どもにとっての機会の平等を実現できる。
(2)米国で行われたペリー・プリスクールの社会実験などで、質の高い幼児教育は次世代の健やかな成長を促し、将来の税収を増加させ、福祉や治安のためのコストを低減できると分析されており、国家にとって費用対効果の大きい政策となりうる。
教育支出の格差が広がる可能性も
しかし、慶應義塾大学経済学部の赤林英夫教授は、「ペリー・プリスクールの社会実験は、1960年代の米国の貧困地域で行われたもので、現在の日本の状況に当てはまるとは限らない」といいます。
「日本では、すでに4~5歳の幼児の就園率は高く(5歳児で96%)、その部分を無償化しても、保護者が自発的に行ってきた私的支出を税金で肩代わりするだけです。つまり、幼児教育無償化のための公的支出は社会にとっては追加的投資とはならず、その分の社会のリターンはゼロに近いと考えられます」
さらに赤林教授は、所得に応じて負担するしくみをもつ保育所も、保育料の一部が減免される就園奨励費補助が出る幼稚園も、貧困世帯の保育料負担はすでに免除されているため、幼児教育無償化による恩恵はないと指摘します。
その一方で、一律の無償化で恩恵を受ける中高所得層は、その余剰を別の教育支出に振り向けると予測され、教育支出の格差が広がる可能性もあるというのです。
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