世界の麻薬王は誰もが名経営者かもしれない 世界を覆う「麻薬経済」の不都合な真実

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密入国ビジネスをなくすのに有効なのは、供給面を担うコヨーテを取り締まることではなく、密入国の需要そのものをなくしてしまうことだ。ビザの発給条件を緩和するなどすぐ出来る施策もあるが、著者によれば、経済学が示す解決策は、国境を封鎖することではなく、逆に開放することだという。そうすることで一つひとつの検問所の価値が下がり、検問所をどちらが支配するかをめぐってカルテル同士が争うような悲劇は減るだろう。

だがここで疑問が生じる。検問所を開けば、メキシコからアメリカへと流れ込む麻薬の量は増えるのではないか? 著者は密売組織に経済的なダメージを与えたいのであれば、貧しいコカ農家ではなく、顧客である富裕層をターゲットにすべきだ主張している。でもどうやって? 著者がここで提示するのは、麻薬の合法化というコンセプトだ。

合法化といっても、もちろん麻薬を自由にしていいということではない。近年、麻薬は安全ではなく危険だからこそ、きちんと法律で規制したほうが効果的にコントロールできるという主張が、麻薬合法化の根拠として唱えられているという。

密造業者が太刀打ちできないような大規模設備で

アメリカのコロラド州ではすでにその実験がはじまっている。デンバーの合法大麻企業では、密造業者が太刀打ちできないような大規模な設備で、安全性や純度、成分などがきちんと検査され、子どもが開封できないような容器に詰められた麻薬が、21歳以上の人々に限定された量だけ販売されている。

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この結果、コロラド州では年間7億ドルを上回る売り上げが組織犯罪グループから合法企業へと移転したことになるという。

本書を読めばきっと経済学の応用範囲の広さに驚かされるはずだ。麻薬カルテルがグローバル企業と同じように運営されているのであれば、彼らの次の一手を予測し、先手を打ってその企みを挫くことも可能となるだろう。その際、経済学の知見は我々にとって有力な武器となる。

本書は経済学的な視点を学べるだけでなく、さまざまなトリビアでも楽しませてくれる。脱法ドラッグの最新事情や(人口わずか470万人のニュージーランドが脱法ドラッグの先進国だなんて!)、麻薬のオンライン販売事情(なんと薬物検査を切り抜けるための合成尿まで売られている!)などなど、聞けば誰かに話したくなるようなネタ満載で、おススメの一冊だ。

首藤 淳哉 HONZ
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