「その後、真央さんと一緒にスナック大宮に行ったことがありましたよね。あのとき大宮さんから『付き合っているの?』と聞かれましたが、まだ決まってはいなかったんです。実は翌日も2人でピクニックをする予定があり、そのときにちゃんと告白しました。ダメなら早めにダメだと言われたほうがいいと思ったからです」
健太さん、丁寧だけど性急な男性である。しかし、1年以上付き合っても結婚を考えてくれない男性との交際にうんざりしていた真央さんは、健太さんの迅速なステップに応えることができた。数日の間に自分の気持ちを整理し、覚悟を決めていたのだ。
「私も子どもが好きだから子どもは欲しい。でも、もしかすると妊娠できないかもしれないので、すでに息子さんがいることは1つの安心材料です」
この言葉を聞いて、健太さんは真央さんとの結婚が成功することを確信。そして、交際期間ゼロの婚約を交わした。
「今まで会った女性から『子どもがいることは気にしない』と言ってもらったことはあります。でも、子どもがいることをプラスに評価してもらったのは初めてでした。この人しかいない!と思ったんです」
真央さんにはもう1つの覚悟があった。安定収入ではない自営業の健太さんと結婚した場合、自分の母親のように専業主婦になることはできない。健太さんからも「養育費のこともあるので、働いてもらわないと家族としてやっていけない」と言われている。幸いなことに、真央さんは都内の会社で正社員の事務職をしている。仕事を辞めない決意をすれば、家庭を築ける見通しが立った。
一緒に住み始めて、健太さんも真央さんも「安心」を何より実感している。離婚の痛手で不眠症ぎみだった健太さんは、今では真央さんよりも先に入眠できると笑う。真央さんは不安やイライラが激減し、つねに穏やかにいられるようになった。
「健太さんは家事力がすごいので、私の担当は料理とトイレ掃除だけ。なんだか申し訳なくて……」
真央さんは幸せそうに恐縮するが、特に洗濯には神経質なほどのこだわりがある健太さんとしては洗濯と掃除を一任してもらったほうが心地よいのだ。真央さんと出会う前は、家事が苦手な高収入のバリキャリ女性と結婚して、自分は家事や育児の多くを担ってバランスを取ろうと思っていたと明かす。しかし、今は条件とは異なる真央さんとの生活に満たされている。
「検索条件」や「理想像」から離れたとき
「スナック大宮には文章を読む習慣がある人が集まっていますよね。だから、話が合いやすくて安心感があります。みんなが会話をする気持ちで来ているのもいい。合コンや婚活パーティではないので、男女問わずに出会いが広がりますよね。だからこそ、婚活の条件とは外れた人と出会い、結婚することができたのだと思います」
自分が幸せになると、他人を励ましたり支えたりする余裕が生まれる。健太さんと真央さんは声をそろえてスナック大宮に感謝し、筆者を激励してくれた。ほおが熱くなるほどうれしかった。
その気になれば、出会いの場は世の中に無数にある。筆者の読者が集まるスナック大宮はややマニアックな一例にすぎない。ポイントは、自分が興味を持つことができて居心地のよさも感じられる場所で、男女や既婚未婚の違いをあまり気にせずに朗らかに交流することだろう。行きつけの飲食店で常連仲間と親しくなるのは典型例だ。すると、頭の中で描いていた理想像とはかけ離れた人を好きになったりする。
他者との会話と共同生活を通じて、自分の中にあるよきものを発見して育てていくこと。それが結婚の意義の1つだと筆者は思う。想定外のうれしい自分に変わっていくことだと言い換えてもいい。「検索条件」や「理想像」から離れたとき、そんな結婚ができる相手が見つかるかもしれない。
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