健太さんに買ってもらったという上品なマタニティドレスを着て、筆者のためにケーキとコーヒーを用意してくれる真央さん。フワッとした柔らかい雰囲気の控えめな美人である。
「私は20代の頃からお付き合いする人とは結婚したいと思ってきました。でも、3年ぐらい付き合っても、結婚したいのは私のほうだけだったり……。気がつくと30歳を過ぎていました」
真央さんが焦り始めたのは34歳の頃。一緒に合コンをしていた友だちが次々に結婚をしていき、合コンという出会いの場が急減したからだ。大手の結婚相談所に登録してもピンとくる男性とは出会えなかった。
「35歳のときに久しぶりに行った合コンで会った人と1年ぐらい付き合いました。でも、この人は結婚しなさそうだ、とわかったんです。その彼とも別れていろいろ悩んでいるときにスナック大宮を知りました」
恋愛が生じることもたまにはあったものの
手前みそになってしまうが、筆者は2011年9月からスナック大宮という読者交流飲み会を毎月開催している。本連載を含めた筆者の文章を読んでくれている人たちに集まってもらい、おいしいものを飲み食いしながらおしゃべりをする会だ。筆者としては「晩婚さんの取材ができそうな人が来たらいいな」といった下心もあるが、基本的には一緒になって宴会を楽しんでいる。
もちろん既婚者やカップルのお客さんもいるが、参加者の7割ぐらいは30代40代の独身男女だ。恋愛が生じることもたまにある。しかし、6年間も続けて、最近は月2回も開催しているのに結婚したという報告は得られていなかった。以前、本連載で日本最大の読書会「猫町倶楽部」代表の山本多津也さんにインタビューしたとき(カップルが続々誕生、日本最大読書会の秘密)、すでに40組以上の結婚カップルが生まれていると聞き、羨望と嫉妬を感じた。
そして、ついに筆者の念願がかなった。健太さんと真央さんは初のスナック大宮内結婚なのである。健太さんは2回目、真央さんは3回目の参加でお互いを見つけ、LINEを交換して、ランチデートをすることになった。
「真央さんが小さい頃にインドに住んでいたことがあると聞き、うちの近くのおいしいインドカレー屋さんに連れて行きました。でも、遠くから来てもらうのにランチだけで済ませるのは申し訳ないですよね。街を案内した後、早めのディナーにも誘って、さらにバーにも行きました。終電で帰ってもらえばいいと思っていたのですが、気がついたら電車が終わってしまっていたので、始発まで居酒屋にいたんです。ひたすらしゃべっていました」
初デートなのに17時間ぐらい一緒に過ごしたことになる。相性がいい証拠だろう。ただし、健太さんの下準備と誠実さが生きたことも見逃せない。スナック大宮という小さな共通点に頼るのではなく、LINEでのやり取りで真央さんのバックグラウンドや興味を事前に調べ、デートコースや話題を考えた。終電がなくなったからといって自宅やホテルに連れ込むことはせず、飲食店でおしゃべりをして楽しく過ごした。真央さんもうれしかったに違いない。
「前の結婚のこともいろいろ聞くことができました。息子さんをすごく愛していることも伝わってきて、『いい人だな』と思ったのは確かです。でも、私にとっては想定外の条件なので、その日に気持ちを整理することはできませんでした」
健太さんとしても強引に交際して結婚するつもりはなかった。「バツイチ同士が気楽でいい」と思っていたので、未婚の真央さんと付き合える可能性は低いと思っていたようだ。並行してデートをしている女性がほかに2人いたという。結果として、真央さんとのコミュニケーションが重苦しくならずに済んだ。
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