31歳「パソコン改造を極める男」が創る稼ぎ方 世界で優勝しても食べていけない道の活路

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海外メーカー・Thermal-Grizzly製の熱伝導グリス。国内販売パッケージに清水さん推奨のシールが貼られている(撮影:村田 らむ)

2015年に入って始めたのはBTOパソコンのチューニングだ。BTOはBuild To Orderの略で、パーツ構成をカスタムして注文できるパソコンを指す。この組み立て過程で清水さんがオーバークロックを施すことで商品に付加価値を付ける。懇意にしていた秋葉原のパソコンパーツショップで始めたところ、コンスタントに注文が届くようになった。さらに、同店での立ち話をきっかけに、熱伝導グリスのスポンサー料を得るようにもなる。

ラボに置かれていたCPU。上に塗られている灰色は熱伝導グリスの跡(撮影:村田 らむ)

「CPUなどから出た熱を冷却装置に効率よく伝えるには、優秀な熱伝導グリスが必要になります。当時海外で評判になっていたグリスがあって、それを店内で熱く語っていたら、海外パーツの販売代理店の方がたまたま来店していて。『試しに輸入してみるから、清水さんレビューしてくれない?』と。そういうやりとりをしているうちにおカネをいただけるようになりました。本当、ラッキーでしたね」

原稿料とイベント料、チューニング料にスポンサー料。大会に参戦しない程度にパーツ代を抑えれば食べていける程度にはなった。しかし、まだ足りない。

パソコンパーツショップへ就職

次に狙ったのはパソコンパーツショップへの就職だ。

「もっと大きく稼げることをやるなら、企業の後ろ盾がいると思ったんですよね。大量のCPUを選別して、オーバークロック耐性が高い個体は2倍の値段で売るとか、オーバークロックしたパソコンを一からプロデュースしたりとか、アイデアはたくさん持っていたりしたので、それを実現できる環境を求めるようになりました」

数あるパーツショップから資本や販売姿勢などを基に3社に絞り込み、就職活動を始めた。イベントや原稿執筆時のやりとりで、各店との交流はすでにある。そのつてに、就職の意思と「自分が加入したらどんなメリットがあるか」をまとめたプレゼン資料を送るようになったのは2016年の春頃。候補としていた企業の担当者と会食を行ったり、ブラックバス釣りに誘って雑談するなど硬軟あわせたアプローチを重ね、同年8月には課長職の待遇でツクモ(Project White)に就職を決めた。

「決定打は給料面ではなく、原稿執筆やイベント登壇などの副業と在宅勤務もOKという待遇面でした。将来大会に参戦する場合もシフト調整を約束してくれるなど、かなりこちらの要望を受け入れてくれて、本当にありがたかったです」

オーバークロック大会は稼げない。2013年に痛感したことだが、いまだ参戦の気持ちは萎えていない。オーバークロッカーとして、スポットライトを浴びながら晴れ舞台でトップに立つ目標はおカネに換算できないものがあるという。実はその思いが、プロのオーバークロッカーとして生きていくもうひとつの道である、パーツメーカーへの就職を選ばなかった理由にもなっている。

「Nickさんが世界記録を出しまくってメーカーに就職したように、それはひとつの成功ルートではあると思うんです。だけど、就職してしまうとほとんどの大会で参加資格が得られなくなるんですよ」

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