フランスには日本人の言う愚妻なんていない

40代もパリジェンヌ、若さでなく成熟に価値

西:パリのパン屋でもカフェのトイレでも、並んでいると、列にいるお兄ちゃんが知り合いでもないのに僕の妻と目が合うとニコっと笑いかけるんですよね。男性が、女の人に意味もなくほほ笑むんです。それにも初めはびっくりした。感じがいいというのか、いちいちナンパめいていると思う人もいるかもしれないけれど、つまりは人と人のコミュニケーションのハードルが低いんです。フランス社会では、たとえば駅の階段でベビーカーを押す親が困っていたら、誰かが必ず手助けしてくれる。その分、街中でのケンカも多いんですけれどね。

小津 彩(おづ あや)/エッセイスト・編集者。幼少時代をシンガポールで過ごし、多民族・多文化主義に触れ、大きな影響を受ける。出版社勤務後、フリーの編集者になり、2009〜2012年フランス・パリに滞在。その後もよくパリを訪れている。著書に『パリジェンヌ ソフィーの部屋―50のアイテムから見るパリのライフスタイル』(プレジデント社)

小津:街を歩いていると、「(タバコの)火、くれる?」と話しかけられることも多いですね。私はタバコを吸わないので、火を持っていたことはないのですが、火の貸し借りがきっかけで、会話がスタートするということもあるようです。あと、自宅前で工事をしていて道に大きな穴があり、その上に板が渡されていたことがあります。

自分ひとりで通れたのですが、工事現場のお兄さんが、こちらの目を見つめて無言で自分の腕をすっと差し出してきたので、一応その腕に手をのせて通りました。街に出ると、自分がいつも女扱いされることが新鮮でした。ただ、正直に言うと、日本人の私にとっては少し過剰なのではと思うこともありました。

一方で、東京は中性的な街だと思います。たとえば日本語の場合、公共の場で他者を呼ぶときや、手紙の宛名は、「様」や「さん」など、男女で差はありませんよね。この日本式の呼び方、私は結構好きなんです。フランス語では「ムシュー」「マダム」「マドモワゼル」など、必ず性別で区別されて呼ばれます。英語もそうですけど。

――確かに。まず性別ありきのコミュニケーションなのですね。

小津:作家の遠藤周作さんはフランスに留学中、フランス人女性と付き合っていらっしゃって、その頃の体験を本にされています。そこで、「彼女はスキンシップが多くて、愛情表現が豊かで、それがうれしかった。日本人女性は、そういうのが乏しいよね」というようなことをおっしゃっています。今よりもっと日本人女性が慎ましかった時代背景もあると思いますが。

――男性から愛情表現を注ぎ込まれている女性の側からも、男性へとたっぷり愛情表現しているわけですね。

西:自分が何か恋愛めいた言動をとっても、フランス人の妻にはそれを拒否されることがないのでとても楽です。日本人女性は文脈によるOK/NGがあって、それさえも「忖度(そんたく)」しなきゃならないのはつらいですね。

フランス女性は40代がいちばん輝いていると考える

――フランスの女性は、40代がいちばん輝いている年代と考えていると聞きました。日本では女性の「ピーク」は20代だとか30代だとか、そんな意識ですよね。若いほど価値がある、といった社会通念もまだ根強く、芸能人も加齢すると「劣化」なんて言われたりします。

西:フランスは大人の文化だから、若さではなく成熟に価値が置かれるんですよ。40代は肉体も元気で知性もあり、いちばん人生を楽しめる時期だと彼らは考えるんです。大人の価値観に合わせた社会なので、子どもが我慢させられていて、だから子どもは早く大人になりたい。日本は若いほうに価値があってちやほやされるから、子どもは年を取りたくないと考えてしまうかもしれませんね。日本はアイドルも若い人ばかり、新陳代謝が激しいですよね。

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