フランスには日本人の言う愚妻なんていない 40代もパリジェンヌ、若さでなく成熟に価値

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西:日本の女性には、そのギャップが「何これ!?」と随分大きく感じられるんだと思います。僕がパリ生活をしていた時も、周囲の日本人女性たちはそれこそ現地の男性に”モテモテ”で、ATMの使い方さえ手取り足取り親切に教えてもらえる。男の僕はうらやましかったですよ。

パリジェンヌの定義?

――西さんは、『モンプチ 嫁はフランス人』(祥伝社・フィールコミックス)の中で、パリジェンヌの定義について奥様と見解が違うことに驚かれていましたよね。小津さんは『パリジェンヌ ソフィーの部屋―50のアイテムから見るパリのライフスタイル』(プレジデント社)で、パリジェンヌという設定の女性視点から、パリの文化風俗を描いていらっしゃいます。

西:パリジェンヌの定義は、フランス人でも人によって違うんです。僕の妻が考えるパリジェンヌのイメージとは、過去にシャネルのモデルを務めたイネス・ド・ラ・フレサンジュ。必ずしもパリ生まれパリ育ちではありませんが、貴族出身で洗練され、経済的にも自立していて、典型的で完璧な条件を備えていると。

僕のイメージでは、大学生くらいの若い女の子でパリに住んでいればみんなパリジェンヌかと思っていたけど、そうではない。僕がソルボンヌの女子大生を指して「あれはパリジェンヌ?」と聞いたら、妻は「いえ、地方から出てきた学生です」とバッサリですからね(笑)。でもセレブばかりじゃなくて、下町のパリジェンヌだってありうるし、まちまちですよね。

小津:「愛の讃歌」で有名なシャンソン歌手のエディット・ピアフは、パリ下町の出身ですよね。

西:僕も昔、フランス人の女の子とカフェでお茶したので「パリジェンヌとデートした!」と喜んでたら、実はパリ郊外出身だからパリジェンヌじゃなかった(笑)。

――パリジェンヌと呼べる条件が難しいですね。「洛中に3代、4代住んだ者だけ大手を振って京都人と名乗ってもいい」みたいな、京都と同じようなものも少し感じますが……。

小津:何年か前に、ファッション誌などで活躍しているフランス人の著名な写真家が、『75 Parisiennes (75人のパリジェンヌ)』という写真集を出したのですが、彼によると「パリに住んでいる女性ならパリジェンヌ」ということで、パリに住み始めてまだ数カ月という女性の写真も本に掲載されています。「パリジェンヌ」の定義は、人によって違うのかもしれません。

西:あと、日本人が抱くイメージとは年齢的な違いもありますよ。僕はせいぜい20〜30歳くらいの若い女性を言うのだと思っていたら、妻によれば40代でもパリジェンヌ。どうやら妻のパリジェンヌ観は、成熟がカギなんですよね。 

小津:私は、「パリに住んでいる女性なら、子どもでも大人でもパリジェンヌ」と思っていましたし、今もなんとなくそう思っています。日本在住の日本人の男友達は、やはり「パリジェンヌって学生とかじゃないの?」と言ってましたけど。それを聞いて、私はびっくりしました。

――そこに、日本人が期待するフランス観やパリ観と、現実のフランスとの差を解明するカギがありそうですね。そもそも社会の主役となる女性がどう設定され、描かれているか。

小津:2008年に作られた『LOL』というフランス映画を見たことがあります。主人公はパリの女子高生なんですが、その母親役のソフィー・マルソーも、とても魅力的なんです。思春期の娘の恋愛だけでなく、離婚してシングルに戻ったママの恋愛もちゃんと描かれているのが、フランスっぽいなあと思いました。ソフィー・マルソーのネイビーのトレンチコート姿が、今でも強く印象に残っています。

西:あれこそ40代のパリジェンヌですよ。

――加齢してなお女性が社会の主役であり、恋愛の主体であり、メディアで注目される対象でありうるのは、日本はまだ到達していない風景ですね。西さんが冒頭でおっしゃった「フランスは大人の価値観に合わせた社会だから」というのが、その答えなのかもしれません。

河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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