最後の成長市場 航空関連産業に集まる元気企業たち

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日本の航空機産業の市場規模1兆円は米国の10分の1、ドイツの半分以下。一方、1トン当たり単価はクルマ200万円に対し、航空機は1・3億~2億円(100倍!)。

MRJのみならず、航空機・ジェットエンジンの国際共同開発にも、政府が手厚く助成する理由はほかでもない。製造業の頂点に立つ航空機産業は、やがては自動車・家電産業に取って代わり、「ものづくり日本」を牽引する、と期待するからだ。

だが、コトはそう簡単ではない。自動車にしろ家電にしろ、日本の強さは、裾野の広さ=中小企業の膨大な蓄積にある。ところが、日本の航空機関連企業は上から下まで引っくるめて400社に届かない。

「産業として成立していない。MRJが海外部品に頼るのも当然。40年間もやっていなかったんだから。最初から空洞化している。すべてはこれから」。そう言うのは、「まんてんプロジェクト」の創設メンバーの一人、千田泰弘さんだ。「まんてん」は、2003年、神奈川県異業種グループ連絡会議を母体とし、航空宇宙部品の開発・製造を目的に結成された中小企業連合である。

13都道府県から150社。うち8割は板金・メッキなど加工メーカーだが、設計・ソフト会社や中小商社、運輸会社も参加する。ただし、航空機部品を加工・生産するには、ISO9001に比べ格段に厳しい品質認証JISQ9100を取得しなければならない。「まんてん」150社のうち取得済みの企業は、まだ7社だけ。「JISQは取得費用だけで数百万円。維持するのに、またカネがかかる。それだけの仕事は来ないですから」(千田さん)。

「まんてん」がただの交流・親睦団体と違うのは、04年、共同受注のための株式会社「JASPA」を会員の共同出資で設立したことだ。大型3次元測定機を購入して測定作業を集中し、納入品についてはJASPAが連帯責任で品質保証する。昨年の共同受注実績は3億円だが、医療・ゲーム機器の仕事が大半で「航空機関連は時たま来るだけ」(同)。

それでも、航空機に意欲をかき立てられるのは、現在の自動車産業にそこはかとない不安を感じているからだ。「自動車はどの国でもそこそこ造れるようになった。むしろ、自動車で鍛えたオンリーワンの技術を“次”に転用できないか」。

もう一つ。航空機より国産化が進んでいた宇宙関連でさえ国産化率はピークの80~90%から30%に落ち込んだ。バブル崩壊後、大企業が“儲からない”宇宙関連から次々、撤収したためだ。「大企業は社長のクルマ、交際費も丸抱えだから、メチャクチャコストが高い。大企業がやめた仕事も、中小企業のコストならやれる。中小企業の出番が来た」。

道は平坦ではないが、まったくの暗夜行路でもない。世界の航空機市場をうならせる技を磨き、導きの先達(中小企業から見ればいずれも今や大企業だが)が、数は少ないながら、この日本にもいるからだ。

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