最後の成長市場 航空関連産業に集まる元気企業たち

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金型で鍛えた技術“さくさく”削る

ボーイングが新しいベンダーを採用するとき、必ず尋ねる質問がある。「キミの工場にMAGはあるか」。

MAGとは、00年に牧野フライス製作所が航空部品加工用に開発したマシニングセンターだ。MAGシリーズの販売実績は累計120台以上。03年発売のMAG3でも1台1・5億円。この値段で、しかも、欧州勢が航空機用市場を席巻する中での大ヒットである。

従来、金型や自動車部品向けでは圧倒的に強い日本の工作機も、航空部品向けは振るわなかった。航空機産業の中心は欧米であり、日本は辺境の地だったのだから、それもやむをえない。牧野が航空部品向けに力を入れ始めたのも、81年に米国レブロンド社を買収してから。当初は“順当に”チタンを削る工作機をボーイングに売り込んでいたが、もう一つ、パッとしない。

そこで発想を転換した。

航空用では材料のアルミ合金をガリガリ切り込む。が、深く強く切り込むと、材料が変形し精度が出ない。ここに、牧野の得意分野である金型の加工方法を持ち込めないか。

金型は高速回転でさくさく削る。“さくさく”だと食い込みがなく、高い精度が出る。ちなみに、金型で求められる精度は(航空部品のような)構造物より2ランク上だった。「これで打って出よう」(鈴木信吾・取締役開発本部副本部長)。

最初に強い関心を示したのは、超巨大機A380の部品加工で行き詰まっていたエアバスだった。牧野は毎分4万回の回転速度を提案した。エアバスは度肝を抜かれたに違いない。それまで航空部品加工で主流だった門型の工作機はせいぜい3000回転だったのだから。

高速回転を実現するポイントは、マシンの主軸を高速に耐える構造にすること。牧野は従来から主軸を内製化しており、主軸の軸芯に冷却油の管を通し、ベアリング自体を中から冷やす仕組みを開発していた。

ファナック製のNC(数値制御)装置も威力を発揮した。従来機では高速回転させると、入力データがついていけずガタ(不良品)が出た。ガタをなくすために、プログラムのほうを修正し、誤差を織り込む作業が必要だった。「ところが(ファナックのNCを搭載した)MAGは最初のプログラムどおりに動く。客は『修正しないのか』と驚いた」(鈴木氏)。

さらに、従来の門型工作機では材料が水平に置かれ、堆積する切りくずの処理に人手も時間も食ったが、MAGは材料を垂直に置く構造にしたため、切りくずが自動的に下に落ちる。おかげで、一人の作業者が3台のMAGを見ることができる。

回転速度が10倍だから、加工時間は10の1。しかも、要員数は3分の1になる。「MAGは航空部品に価格革命を起こした。一度、手にした客はもう引き返せない。リピート率は90%以上」。

ところが、これほど“革命”的なマシンなのに、日本の顧客は全体の1~2割程度。「日本のメーカーの加工技術は優れているし、コスト力もある。それなのに、なぜか、(需要が)出ない。MRJのローンチで日本企業に(航空部品の)仕事が増えてくれば、と思ってはいるが」。

図らずも、と言うべきだろう。MAGの大ヒットがあらためて、日本の航空機産業の層の薄さを浮き彫りにする形になっている。

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