最後の成長市場 航空関連産業に集まる元気企業たち

拡大
縮小

複合材で熟練の技 9割の世界シェア

航空部品市場の一角で、意外な企業が世界に覇を唱えている。日機装は人工腎臓や精密ポンプで広く知られるが、その同じ会社がジェットエンジンの逆噴射装置用カスケードで9割の世界シェアを握っている。

カスケードは着陸時に空気の流れを逆流させ、機体を減速させる部品。日機装は世界で初めて、カスケードを炭素繊維複合材で作ることに成功した。ボーイングのB737、B777、エアバスのA320、A380のカスケードもすべて日機装製。複合材カンパニーのプレジデント、宮田博明執行役員が胸を張る。「カスケードを複合材化したいとなると、まず、うちに話が来る」。

しかし、日機装の基本シーズはポンプの流体技術であり、本来、炭素繊維複合材とは縁もゆかりもない。1981年、創業者が発した「とにかく新事業を起こそう」という指示が始まりだった。たまたま、当時、新素材として脚光を浴び始めた炭素繊維に着目。繊維会社から人材をスカウトし、82年には炭素繊維を生産するプラントを作り上げていた。

が、プラントから作った炭素繊維を何に使うか。ボーイングのトレーニングを受けているうちに、ナセル(ジェットエンジンの収容部)メーカーから「カスケードを炭素繊維で作ってみないか」と声がかかった。それまで主流だったアルミ合金のカスケードは、金属疲労からトラブルが多発していたのだ。

「やってみます」。年末に試作に成功し、早くも翌年には炭素繊維のカスケードの量産開始。が、量産といっても、最初は二十数個から。「秘密保持契約を結んで生産が始まる。初めは真っ赤っか」(宮田氏)。さんざんな“授業料”を払ったが、気がつけば、25年の研鑽が日機装をトップ企業に押し上げた。

蓄積の最たるものが、製造ノウハウだ。小さいながら、格子状のカスケードは複雑な形をしている。「むしろ主翼や尾翼のほうが形は単純。カスケードのように複雑な形状では、作り手のノウハウが物を言う」。

プリプレグ(シート状の炭素繊維複合材)を手で型に張り付け、オートクレーブ(高温高圧の硬化釜)で焼き、1枚1枚、羽の角度を変えないようにそっと型を抜く。「いわゆる“特採”(仕様から外れているが直して使う)はゼロ。ボーイングの評価は100%に近い」。

納期も重要なポイントだ。発注が確定する前に、先回りして生産計画を立てる。年末に生産機数が上がりそうだと見れば、前倒しで材料を仕入れ、作りためる。そのためにも、設備能力には余裕を持たせる。昨年末、複合材の生産拠点、静岡工場を1・6倍に拡張し、カスケードの生産能力を1・8倍に引き上げた。

「他社はせいぜい1機種。うちは2ケタに近い機種のプログラムを抱えている。効率が全然違う。今や他社が参入するのは難しいと思う」。

複合材カンパニーの売り上げは3年で倍になった(07年度売り上げ55億円)。営業利益率は全社平均並み(9・5%)だが、宮田執行役員の目標は「ここ2年くらいで売り上げを3ケタに」押し上げること。

カスケードの寡占を維持しつつ、新たな複合材部品に進出する。すでにボンバルディア社のリージョナル機向けのエルロン(補助翼)を受注したが、狙うのは、単なる生産下請けではなく、強度解析・詳細設計も任せてもらう本格派の仕事だ。宮田執行役員が言う。「MRJに対しても、何かお手伝いできるのではないか。ぜひ、これから提案したい」。

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT