なぜなら、支持基盤だった中道左派の有権者が、社会党ではなくマクロン氏に票を投じたからだ。同氏が打ち出した政策は今のところ、すべて選挙公約に挙がっていたものであり、有権者はそれを承知で投票している。フランスの中道左派は大方、マクロン氏の政策を支持していると見ていいだろう。
確かにマクロン氏が進める競争重視の経済政策は、長年フランスがとってきたどのような政策と比べても、はるかに右的なものだ。しかし、同氏の社会政策は、これまでと同程度の再分配を目指している。つまり、そのアプローチは、型にはまった左派の政策に異を唱えるものではあっても、基本的には中道左派の政策でできている。
「右か左か」を争う時代ではない
確かに、富裕税の撤廃によって、経済全体が潤うという主張は擁護しがたい。トリクルダウン効果を通じて中間層や低所得者層にも恩恵が及ぶという理屈は怪しげなものだ。
とはいえ、富裕税は歴史的に、産業界や起業家たちがイノベーションを起こす妨げとなってきた。伝統的に資本主義が極めて弱いフランスという国においては、競争を促すインセンティブを持ち込むという、改革の背後にあるロジックには意味がある。
所得移転によって、行き過ぎた不平等を正すことを重視するフランスのモデルは、脱工業化社会の登場に伴って弱者の比率が増大したことで限界に達している。再分配が大きくなり、経済の効率が犠牲になっているのだ。
マクロン氏が左派と右派の垣根を取り払ったことで、フランスの伝統的な政党は、存在意義にかかわるジレンマを抱えることになった。だが、ポイントはそこではない。
格差が拡大する中、フランスが直面する最大の課題は、弱者救済によってダメージをコントロールする古い政策から、ダメージを事前に防ぐ新しいモデルへとシフトすることだ。マクロン氏の政策は、こうした目標に照らして評価されるべきである。右か左か、などという、もはや意味を失った思想的レッテルによってではない。
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