資産家からのプロポーズに彼女が怒ったワケ

読み切り小説:シェアリング・エコノミー

しかし、メイは証拠をつかむことができずに2週間が過ぎた。

夜。カツタとメイは並んで横浜港に面した公園に入っていった。

海を向いて間隔を開けて並べられたベンチは、夏の夜ならば若い男女で埋め尽くされてしまうが、気温が零下にまで下がった今夜は空いているもののほうが多い。2人はそのうちの1つに寄り添って腰を下ろした。そして、黙って、イルミネーションが施された古い客船や、遠くの観覧車の七色の光が群青色の海面にきらきらと反射するさまを眺めた。

「君の知らない景色を見せてあげる」

カツタは腕をメイの背中の後ろにゆっくりとのばし、羽毛の毛先のようなやわらかさでメイの向こう側の肩の上に置いた。

メイがゆっくりと首を傾げて、カツタの肩の上に頭を載せた。

「もうちょっと早くこうなりたかったのに」

と、メイが白い息とともに、言った。

「君の心が僕のほうを向いているのかどうか、確信が持てなかったんだ」

と、カツタはメイの髪の香りを感じながら、言った。

「じゃあ、いまは確信が持てたということ?」

「違うのかい?」

メイはあごを少し上げてカツタのほうへ首をまわし、にこりと笑った。

「メイ。ここに来るまでに2週間かかったけれども、ここからはスピードアップする」

「スピードアップって?」

カツタはつばを飲みこんでから、言った。

「僕と結婚してくれないか」

メイが体を起こし、カツタの顔を真っ直ぐに見た。

「メイ。僕は君を幸せにする自信がある。君が置かれている状況がつらいものであるのなら、僕は君をそこから連れ出してあげる」

メイは大きな瞳をさらに大きく見開いた。みるみるうちに瞳が濡れてきた。

「新婚旅行では何日もかけて世界じゅうを見て回ろう。まずはアメリカだ。自由の女神が出迎えてくれるニューヨークを見て、ワシントンのホワイトハウスにも行こう。その次は大西洋を越えてアフリカだ。ピラミッドやスフィンクスを見て、アブシンベル神殿も見せてあげる。アフリカに飽きたらヨーロッパ。エッフェル塔やサグラダファミリア。イタリアではローマの休日のシーンのまねをしよう。最後はアジアだ。万里の長城に行って故宮も見て、タージマハルも見ようじゃないか。世界にはすばらしい景色がいっぱいある。君の知らない景色を見せてあげる」

「私も知っているわ」メイが目を細めて言った。「日本も見るんでしょ。スカイツリーとか国会議事堂とか」

「もちろん君が望むなら日本の見どころも見て回ろう」

「あまり混んでいるところは好きじゃないの」

「大丈夫さ。混んでいない時期を選べばいい。それから――」

カツタは空を見上げて夢を語るように続けた。

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