OPEC総会後、原油価格がさらに上がる理由 大半の人は現物と先物の関係を間違っている
また、最近では、シンガポール周辺の海上でタンカー貯蔵されている原油在庫の減少も顕著となっているようだ。ここにもOPEC主導の協調減産で原油市場が引き締まっていることが示されている。実際、トムソン・ロイターによると、シンガポール沖とマレーシア西部沖では、巨大タンカー約15隻が3000万バレル余りの原油を貯蔵しているが、タンカー数は6月から半減したという。また、洋上在庫は直近では1500万バレル程度にまで減少しているとみられている。
このように、アジアの石油貿易拠点における海上原油在庫は、OPECやロシアなどによる協調減産に伴い、明らかに減少している。さらに、現在の先物市場のフォワードカーブ(現在から見た将来の契約などの価格のグラフ)の形状を考慮すれば、これらのオペレーションが機能しなくなるのも当然である。
「現物が先物よりも高い=先安感がある」は間違い
というのも、たとえば現在のWTI原油の先物カーブを見ると、先物価格が現物価格よりも安い状況にある(このことを「バックワーデーション」という)。これはコモディティ特有のパターンだが、これは現物需給が逼迫しているときに見られる典型的なパターンである。このパターンをみた金融市場関係者は、「先物価格が安いので、先安観がある」と考えるようだが、それはまったくの素人の見方である。コモディティは現物が中心であり、期近価格が基準である。先物に対して期近価格が上昇しているのだから、相場は強いのである。
このような典型的な強気パターンにあるのが、現在のWTI原油先物市場なのだ。フォワードカーブがこのような形状になると、現物在庫を保有しながら先物で価格変動のリスクを回避するためのヘッジが不可能になる。なぜなら、保有している原油の価格よりも安い価格で売りヘッジをせざるをえないからである。
こうした状況になると、現物をショートしている取引参加者は慌てて買い戻しをせざるをえなくなる。現在のように、OPECとロシアなどが減産を続けている中で、需給が改善し始めると、ショート筋は現物の手当てに困ることになり、結果的に期近に買い圧力がかかるわけである。
実はこうした先物市場のカーブの形状は、米国のシェールオイル企業を厳しい状況に追い込むことになる。というのも、保有する原油資産の価格ヘッジができなくなるからだ。現在のWTI原油の期近価格は58ドルだが、2018年は平均すると57ドル程度、2019年は53ドル、2020年は51ドル、2021年は49ドルとなる。ヘッジ価格として最低でも55ドル程度は欲しいと考えているシェールオイル企業が多いとみられていることを考慮すれば、期近価格が上昇しても、期先価格が上昇してヘッジができないことには、安心してリグの稼働ができないことになり、供給をおいそれとは増やせないのである。現物需給バランスの改善は、このようなところにも影響を与えているわけである。いったんこのようなサイクルにはまり込むと、価格は往々にして堅調に推移しやすくなる。需給というコモディティにとって最も重要な価格決定要素が改善しているわけであり、価格が上昇に向かうのは必然ともいえる。
11月30日のOPECと非加盟国の総会では、2018年3月までの協調減産は、少なくとも同9月、最大で同12月まで延長される可能性が高い。そうなれば、需給バランスの改善はますます進むことになる。その結果、WTI原油は2018年1月までをメドに、筆者が本欄で繰り返し述べてきた適正価格である「65ドルから75ドル水準」に到達するものと考えている。
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