観光で苦戦する地方が陥る「幕の内弁当」の罠 外国人客にスルーされるのには理由がある

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瀬戸内の場合、有名観光地をいろいろ並べて訴求することはできますが、それではゴールデンルート、つまり東京・富士山・京都・大阪などを結ぶ外国人に人気の旅行ルートには勝てません。結局、何でもありでよくわからなくなってしまうのです。

そこで瀬戸内は、自分たちのインバウンドのターゲット戦略として「Educated Traveler(世界のあちこちまわってきた、旅慣れて成熟した旅行者)」という旅人像を規定したのです。

「この人たちは、名所観光というより文化的な背景を学ぶことが好きな旅人だろう」

「どちらかというと欧米に多い旅人タイプで、日本に2~3週間は滞在するだろう」

「世界中をまわっているから地域ならではの体験や異文化交流を好む旅人だろう」

そうしたより個別具体的な議論やリサーチを繰り返すことで、世界中の「Educated Travelerたち」が好むであろう「瀬戸内海の多島美」と、そこでの自分と向き合える多様な体験こそが、瀬戸内の旅先としての最大の価値である、という方向性を打ち出すに至ったのです。

その地域自体に旅先として興味をもってもらえれば、各スポットの細かい情報は、あとで旅人のほうがいくらでも調べてくれます。まずは、各自治体が自分たちが来てほしいターゲットのイメージを明確に規定することで、打ち出すべきものを絞ることができるのです。

幕の内弁当化している地方インバウンド

実は、日本のインバウンドは、このターゲットや打ち出すべきコンテンツを「絞り込む」ことが苦手です。

知り合いのデザイナーが、ある地域の海外向けの旅行ポスターを作ったときのこと。行政の担当の方にこう言われたそうです。

「うちの地域の名物である“桜”とイチ押しの“梅干し”も絶対に入れてくださいね!」

もともとこの地域は古いお寺が多い場所で、そのデザイナーは、お寺や里山の散策道の風景を使ったポスターをイメージしていたのですが、桜はまだしも、さすがに梅干しをどう入れるかは、随分と苦労したそうです。

こうしたことは、地方のインバウンドではよくある話です。筆者は東京・京都・大阪以外の「日本の地方」を「世界の観光地に」するいろいろな仕事をしており、その中で地域のインバウンド向けのパンフレットやウェブサイトを見る機会が多いのですが、「自然」も「食」も「温泉」も「祭り」も「神社」も「地域の工芸や名産」も……と、ついつい地域の名物を「あれもこれも」詰め込んでしまったものをたくさん見かけます。

アピールしたい観光資源がたくさんあることはすばらしいことですが、いろいろと詰め込んだ結果、どの地域も、自分たちの名物を盛り込んだ「幕の内弁当」を作っているような状況になってしまっています。幕の内弁当はお得なようですが、いろいろな幕の内弁当が並んでいると、外国人旅行者にとってはどれも同じように見えてしまいます。

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