「タダ同然の廃墟物件」に買い手が集まる理由 空き家流通に訪れている変化の風

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一般的には住宅ローンが使えないため、売れないとされる借地権付きや築年数の古い物件も、100万円前後の物件が多いこともあり、どんどん売れていく。前述の50万円進呈という物件にも100件近い問い合わせがあったため、入札となり、最終的には数十万円という値がついた。

売る側、買う側の意識の変化で空き家流通が進み始めているが、大きな障壁もある。それが先祖伝来の土地や屋敷を売ることに罪悪感を覚えるといった意識の問題である。今回、藤木氏とともに訪れた首都圏近郊の住宅では、所有者は「相続してすぐに売ったとなると何を言われるか、近所の目が気になる」と話す。都心ではそうした意識は薄いかもしれないが、首都圏でも農地の残るエリアでは根強いのである。

空き家が流通しにくい理由

見学に行った首都圏近郊の、屋敷林を背後にした住宅。今どきの家族構成を考えると広すぎるうえに、敷地内の植栽等の手入れに多額の費用がかかる(写真:家いちば提供)

この住宅の場合、半年前まで人が住んでいたため、建物はさほど傷んでいない。が、問題は山林と庭。草刈りを、年に3回地元のシルバー人材センターに頼んでいるが、それが1回15万円かかるうえ、庭師にも隔年で35万円支払っている。さらに、近隣に枯葉をまき散らす巨木伐採には100万円以上の見積もりが出ている。

相続した後にこうした負担がかかることがわかったが、残置物だらけの状態では一般の不動産会社には頼めないと、悩み果てていたところ、家いちばを知ったという。物件を掲載すると、数多くの問い合わせがあった。

価値ゼロと思っていた物件に価値を見いだしてくれる人がいると、所有者は勇気づけられたという。今のところ売却したいと考えているものの、活用してくれる人がいるのなら貸すという手も考え始めている。今後、売る、買うだけでなく、活用までアドバイスできる仕組みが付け加われば面白いだろう。

このほかにも、空き家の流通を活性化するには、いくつか改善すべきポイントがある。1つは、行政が保有する不動産関連情報の一元化だ。買った土地に家が建てられない、隣地との境界がはっきりしていない、水道が引かれていないといった購入後のトラブルを防ぐため、不動産の売買契約では、宅地建物取引士は多岐にわたる項目を調査する。法務局で謄本を取ることに始まり、市町村役場などで固定資産評価証明書、道路課で道路台帳、水道局で水道管管理図を取る、法令上の制限を逐一確認するなど、手間がかかるのである。

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