日中接近の限界示す5分間の「立ち話」 両国首脳の初接触が急きょ実現

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謝意の表明すらひた隠し

習主席は、日本との関係において極めて用心深く振る舞っている。それを象徴するのが、1月に公明党の山口那津男代表と会見した際の秘められたエピソードだ。このとき習主席は、昨年11月の共産党大会で総書記に選ばれた際に当時野党だった安倍総裁から祝電を送られたことへの謝意を表明した。ただ、そのことは報道陣には伏せられた。国内で「日本に弱腰」と見られることを警戒したためだ。対日関係は政争の具に使われやすく、発足まもない習政権としては慎重に臨まざるをえない。

今回の立ち話も、報道のカメラが入れない控え室で行われた。両首脳が握手している写真が流れ、中国国内の反日感情を刺激するリスクを避けたためだと思われる。

凌星光・福井県立大学名誉教授は、「中国は日本と立ち話をやったらよい」と題する論文を8月26日付で中国紙「環球時報」に寄稿。「正式な首脳会談については慎重かつ厳格な態度を取らねばならない。しかし、非公式の首脳会談ならば柔軟に対応すべきだ」と書いていた。

その後に立ち話が実現したことの意味について凌氏は、「正式な首脳会談の実現までは3~5年の長期戦を覚悟したほうがいい。しかし、その間においても経済面や文化面の交流は促進すべきだ。5分でも首脳同士が会うことで、そうした活動がやりやすくなる」と話す。

首脳会議前の習主席の大連でのパフォーマンスも、経済面での交流テコ入れという文脈でとらえれば、わかりやすい。しかし、尖閣諸島をめぐる対立で中国が譲歩することは期待しにくい。尖閣周辺海域では中国の公船による巡回が続いており、中国はその「常態化」を目指している。

中国側が正式な首脳会談のため日本に求める「一歩」とは、尖閣について領土問題の存在を認めることだ。しかし、それを否認する日本側の立場も動かない。

本格的な関係改善には、まだ時間がかかると覚悟しておくべきだろう。それでも、中国側が政治と経済を切り離す姿勢を示しているとすれば、冷え込みつつある両国の経済関係にとって明るいニュースだ。

(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2013年9月21日号

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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