東大はもう"オワコン"なのか? 藤原和博とスーパーIT灘高生が考える(中)
ある分野で超一流でもほかの分野を知らない
Tehu: 全分野で勝てない人が必ずいるんですが、でもその人と話していると、ボクはほかの分野もできるし、ほかの分野に知り合いもいるし、逆にその人に頼りにされたりして、ある意味、対等な立場になれるんです。
藤原: ああ、その人はそっちの分野の超一流だけど、ほかの分野を知らなかったり、ネットワークがなかったりするから。
Tehu: はい。ウィンウィンの関係で、その人はもちろんプロフェッショナルだから、ボクはその分野でお世話になるし、ボクはその人に、たとえば「今度、あの人をご紹介しますよ」ってつないだり。
藤原: アニメの製作なんかは、100も200も別の職種をつなぐでしょう。Tehu君が、ある時点で1つの分野にグッと入っていくのかどうかに興味がある。そこで、これまでの英語やITやデザインやしゃべりの能力が全部生きてくるみたいな。
だってスティーブ・ジョブズも大学時代にタイポグラフィーの勉強をしているでしょう。それでこだわりの逸品が生まれるわけじゃないですか。Tehu君がそれをいつか発見するのか、まだわからないところだね。
Tehu: わからないですね。
「人類1.0」から「人類2.0」へ
藤原: その前の世代の人たち、いまの日本の産業をつくった人たちをもし「人類1.0」とすれば、その次は「人類1.5」ぐらい。Tehu君って「人類2.0」ぐらいのスペックかなと思うよ。全然、予想を超えた展開をしてくれそうで、Tehu君の人生劇場が楽しみだな。
オレはオレでね、ちょっとここでは終らないというか、もうひと勝負、そろそろかけたいところがあるんですよ。これまでだいたい27歳、37歳、47歳と、過去の蓄積を全部捨てるということをやっているの。
27歳のときは、自分が得意だった企画営業の世界を捨てて大阪に行った。まあ、これは会社の辞令で転勤だけど。「大阪弁をしゃべらなきゃ人類じゃない」ぐらいの土地でベタベタの営業をやったんです。それでオレの営業力はものすごく強くなった。正月に海老を持って取引先の部長の家を訪ねるという「宅訪(たくほう)」をやったりね。まず大卒のヤツがやらないようなことを楽しくやって鍛えた。
37歳のときは、リクルートを捨ててヨーロッパに行って、成熟社会というものを見た。
47歳のときは、自信を持っていた民間企業でのマネージメントを捨てて、それが通用しないかもしれない学校という世界に飛び込んだ。和田中(杉並区立和田中学校)の校長になって、自分のマネージネンメントの力をノンプロフィットで活かしたらどうなるかに挑戦した。
3つの分野が遠いほど可能性が広がる
3つの分野で「100人の1人」になろうとするとき、それぞれの分野が遠いほうが、三角形の面積が増えて自分の可能性が広がるんです。3点がどんと広がって、他者から与えられる信任、オレはクレジットと呼んでいるんだけど、それが圧倒的に増えた。
ここでたぶんオレは世代に1人ぐらいのレアな存在にはなったと思う。ビジネス、人生、教育の分野をまとめて語れるのはオレぐらいだからね。
いま講演をやると、1回50万円ぐらい取れるんです。講演にも序列があって、「お車代3万円の人」「10万~20万円の人」「50万円の人」「100万円の人」がいる。序列は何で決まるかというと、その人のレアさ。希少性が高ければ高いほど、聴衆に価値を提供できるから序列が上がっていくんです。
それはともかく、オレはもう田舎に引っ込んで穏やかに暮らすという手もあるんだけど、57歳だから、また全部捨てて、もう一発やりたくなっているわけ。ビジネスのマネージメント、ノンプロフィットのマネージメントがまったく通用しない世界で挑戦してみたい。
──たとえばどういう世界ですか?
藤原: 宮内庁長官とかやりたいね。やんごとなき世界は、オレの過去の蓄積がまるで通用しないだろうから。仮に破滅したとしてもやってみたいという恐怖感に対する興奮がある。
Tehu君は勉強ができるのにそれを捨てて、東大を受けないんだって?
Tehu: はい。