「家、ついて行ってイイですか?」成功の秘密 今やテレ東バラエティを代表する人気番組に

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2つ目は、逆説的にほとんどの音楽を外すと、群生する朝顔より一輪摘んだ朝顔の美しさが伝わるという千利休の「朝顔理論」のごとく、番組の締めで使う「Let It Be」によって伝えたいほぼ唯一のメッセージ──この番組はあるがままのその人の人生をあくまで肯定するというメッセージ──がより浮かびあがるというメリットです。

そして3つ目は、視聴者が「圧倒的なリアルさを求めた時代性」です。インターネット出現以来、視聴者はテレビ作りの裏側の情報を多く得ることができるようになり、とても目が肥えています。小手先の演出はすぐに台本だと見破られますし、ナレーションを放送作家が書いていることも当然知っている。テレビが常に「これはリアルか」と問われながら見られている時代になったと感じます。

そんな時代だからこそ、圧倒的にリアルさを追求した演出手法が、逆に視聴者に刺さるのではないかとも思いました。つまり「ノーナレーション・ほぼノーミュージック」は、ネット世代の「超リアル」を求める視聴者への1つの答えなのですが、その「超リアル」を追求する1つのカテゴリーでもあるのが、次の項目です。

④⑤「半径10m以内」、そして「偶然」のドキュメンタリー

これはつまり、取材対象者を仕込まない。つまり、こちらが選ばないということです。

普通、ドキュメンタリーを撮影する場合、まずリサーチして、それなりに取材するに足る理由を持った主人公を探すという作業があると思うのですが、この番組ではあえてそれを行わない。あくまで、主人公はたまたま街を歩いていた方。だからこそ、自分たちの半径10m以内にいる人々の、圧倒的にリアルさを持ったドキュメンタリーを描けるのではないかと思います。

みんな、何らかのドラマやエピソードを持っている?

たまたまついて行ったら、壮絶なエピソードを持っていた方も多くいます。実はわれわれが社会で普段「ソト面」に接していると、何食わぬ顔で生活していても、「ウチ面」の部分ではみなそういった、何らかのドラマやエピソードを持っているのではないかと、番組を作りながら思わされます。

また、番組に登場するのは壮絶な人生ドラマを持った方ばかりではありません。帰宅して鬼嫁に怒られる瞬間だけを切り取ったVTR、ただ単に新婚のラブラブを見せつけられて取材を終えるVTRもあります。

でも、それらは本当に「超普通の日常」なのですが、他人の家での、他人のリアルな鬼嫁っぷりやラブラブっぷりは、なかなか見られるものではありません。それ自体が「半径10m以内」なんだけど、なぜか見たことない「偶然」と、「即興」という手法をとるからこそ見られる貴重な映像なのだと思います。

高橋 弘樹 映像ディレクター

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たかはし ひろき / Hiroki Takahashi

1981年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、2005年テレビ東京入社。『家、ついて行ってイイですか?』『ジョージ・ポットマンの平成史』などを企画・演出。2021年よりYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」の企画・制作統括を務める。2023年テレビ東京を退社し、ABEMAに転籍。同年3月より自身が代表を務める株式会社tonariでビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」を開設。著書に『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、『TVディレクターの演出術』(筑摩書房)など。

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